うちのマネージャー 44
「―…今日の練習はこれまでっ!」
「「「ありがとうございましたっ!!!」」」
がやがやと散っていく部員たちを背後から見やりながら、共恵は息をついた。そして同時に、既視感に見舞われる。
一昨日と似通った今の状態。でもあの時と違うのは、ここには聡介がいないこと。そして……。
「小原」
あの日も、こうして声をかけられて振り向いた。でも、今声をかけたのは聡介ではない。昨日一日で、共恵の脳髄にこれでもかとインプットされたこの声を、間違えるはずがない。
「…名前で呼んでくれないの?」
振り向き様、甘えを含んだ小さな声で相手に不満をぶつける。
わかってはいるのだ。今はまだ二人きりではないのだから。
「……………」
そんな共恵の様子に、声をかけた健哉は、目をすっと細めゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「…拗ねんなよ…後でたっぷり可愛がってやるから…」
耳元で囁かれ、躯が熱く震えるのを感じながら、共恵は情欲に潤んだ目で頷いた。
聡介が部室から出ていったあの後、結局場所と時間柄抱いてもらえなかった共恵の躯は、どうしようもなく疼いていた。それなのに今日に限って、1時間も練習時間が延長してしまったのだ。夏が近く、日が長くなっているとはいえ、辺りはもう薄暗くなっていた。
(…もう今日はダメかな……)
さすがに今日も泊まっていってもらうのは無理な話だろう。
共恵の住むマンションへと二人並んで歩いてはいるが、明日は月曜日。今日以上に朝も早い。健哉を引き留めるのは無理な話だろう。…それどころかこのままえっちもお預けかもしれない。
会話もなく歩む二人は、マンションへの近道である近隣公園に差し掛かろうとしていた。