授業中はお手伝いできることも少なくなるので、その間は日陰にあるベンチに座って唯ちゃんといろいろ話した。
そのあとは一緒にタイム計測をしたりして、3組の他の女の子ともちょっとおしゃべりできた。唯ちゃんと仲のいい子とも打ち解けることができた。

「よかったらうちのクラスにも遊びに来てね」
唯ちゃんはそう言ってくれた。


それに比べたらうちのクラスはなんと味気ない…というべきなのか、大人げない奴らばかり、なのだろうか。
その日の最後の授業は家庭科で、授業後に遥先生とちょっとおしゃべりしていた。
その時、遥先生がカバンから週刊誌らしき本を取り出して見せたのだ。表紙には黒ビキニの巨乳のグラドル。

「この子アイドル時代の仲間でね、よく表舞台でブレイクできたなって思ったもんよ…昨日一緒に飲んだんだけど、全然変わってなかった」
なんていう遥先生は楽しそうで、色々面白い話が聞けるのかなと期待した…ところで、白木さんに怒られた。遥先生も一緒に、だ。

遥先生は、他のクラスで授業が終われば女子達に取り囲まれるぐらい大人気の先生だし、男子達も憧れの視線を送る。
非公式ランキングでも人気トップクラスの先生だ。
でも、この４組だけは冷ややかな視線。
授業終わりに喋るのは私ぐらいだ。
遥先生やミク先生もこのクラスは難しいなんて愚痴をこぼしたりするけど、授業態度が一番真面目らしくて優等生クラスなんて先生達も呼んでいるみたいだ。

無論、遥先生やミク先生も真面目に授業する。
ただ冗談さえ言えない雰囲気があって、担任のアンリ先生も堅苦しくてどうしようなんて愚痴めいた事を言う事もあった。
そのアンリ先生によると、４組で私の存在が癒しらしく、それ故にアンリ先生と私の関係がいい事が余計に事態をややこしくしている部分もあった。

「ま、あの子達も西浜さんも悪くないんだけどね・・・」

家庭科室から出て行くクラスの子達を見ながら遥先生が少し寂しそうな笑みを見せる。
そう言う雰囲気で結束してるように見えるから、いい優等生クラスなんだろうけど・・・
多分私も遥先生も馴染めないだろう。

「私が高校生だった時はかなりやんちゃな子たちが男女ともそろったクラスでね、担任の先生はやかましい奴ばかりだって文句言ってたけど、今じゃそれも笑い話にできる。その中に一人、白木さんみたいなタイプの子もいたんだけど、大方彼女のことは内申点目当てだったんだろとかって陰で言ってたよ」

「うちの場合は、そんな感じありませんもんねぇ」
「みんな真面目過ぎるね。手を焼くことがなくていいっていう先生もいるけど、私はそうは思わないなぁ」


その日の帰りは一人。
特に用事もなくまっすぐ家に帰ろうと思い校門まで来ると、前を白木さんが歩いていた。
校門の前に車が一台止まっていて、白木さんはその車に乗り込んだ。

「あの車…やはり白馬建設の令嬢でしたか」
「桜庭先生!?いつの間に!?」

何時もながらふわふわとしたお嬢様の桜庭先生。
彼女も巨大企業桜花グループの総帥の孫娘だ。

「白馬建設はこの地域ではトップのゼネコンですわね・・・残念ながらお付き合いはありませんが」

柔らかい表現だけど、つまり・・・

「敵対関係って事よ」

アンリ先生が後ろから現れる。
この２人は仲がいいと言う話は聞かなかったけど、愛華センパイ絡みで繋がってるのかもしれない。

「敵対関係・・・ですか？」
「まあ、桜庭先生の口からは言えない話だけど、有名な話なのよね・・・特に小松台駅前開発の件とかね」

アンリ先生の言う駅前開発とは、桜花グループ参加の桜建工と白馬建設が入札にシノギを削り、結果白馬建設が入札・・・
しかし、工期の大幅な遅れ、費用の高額化・・・
更に行政との少なくない金銭のやり取りや入札の情報のリーク等・・・
逮捕者が出る大騒ぎになり、工事は途中で桜建工に変更。
ただ、その問題の暴露が桜花グループからなされたとして白馬建設が桜花グループを訴えると言う騒ぎに発展。

駅前開発事業は当初５年の予定が、１５年かかってしまうと言う事になって、ようやく去年完成したと言う話だ。
つまり、１０年ぐらいの間いがみ合っている関係のようだ。

「そのお嬢様が何でこの学校に？」
「白馬建設もこの学校に多大な寄付をしている関係でしょうかね」
「所謂縄張り争いね」

桜庭先生の言葉をアンリ先生が要約して解説してくれる。
確かにこの学校は桜花グループ関係者は多い。
愛華センパイもそうだし、翼の家も関係は深いみたい。
では、白馬建設の関係者も多いんだろうか。

「西浜さんのクラスは白馬建設関係者が多いみたいね・・・まぁ、偶然そうなったんじゃなく意図的に分けられているんだけどね」
「じゃあ私は？・・・」
「クラス編成の頃は西浜さんがどちらでもなかったからでしょうね」

成る程。
私があのクラスであの扱いはそれも関係あるのかもしれない。

「白木さん自体に何か企みがあるとは思わないけど、どこにも変な忖度する取り巻きがいるのかもね」