学園ご意見所X 65
梓センパイの言葉に霧香センパイが返す。
こころ先生と遥先生は、ちょっとこの服じゃマズいんじゃないとか言い出している。
「チェリープラザホテルって凄いの?・・・」
「ホテルって世界基準があるんだけど、10段階の最高なのは日本で3つだけ・・・チェリープラザホテルはその1つ下のランク」
私の問いに答えてくれるのは翼。
流石は翼もお嬢様だけによくお知りで。
でもそれって・・・
ド庶民の私には永遠に関係の無い場所では。
「まっ、普通に高級なだけだから大丈夫さ」
そう笑う霧香センパイはイケメンだけど、何も考えてないだけなのは気のせいだろうか。
「うへぇ・・・作法とか苦手なんだけどなぁ・・・」
「心配いらない梓・・・失敗したらオシオキの後に再調教してあげるから」
「いや、マジでそれやめて」
梓センパイはげんなりした顔。
そして私も作法なんて知らない子です!
「大丈夫よっ!ヒナは私が手取り足取り教えてあげるからっ!・・・ぐへへ」
「翼・・・変態が伝染ってるよ・・・」
なんか怪しい手つきを私の目の前で見せる翼に、後頭部に軽く手刀を入れる。完全に感化されちゃってるわ、これ。
ウィナーズサークルの桜庭先生はこちらをちらっと見るとニコッと微笑んだ。やっぱバレてたんですね。
ご招待までにはまだ時間がある。なぜなら、桜庭先生が持ってるお馬さんはもう一頭出走してくるからだ。メインレースに出てくるウララリヴァー。この馬は新聞紙の上では無印。
「鞍上は鎌田奈緒美ちゃんだね」
「久々誕生の女性騎手でしたっけ。デビューしたときは騒がれてましたけど…」
「伸び悩み気味なのよね」
そんな話をするこころ先生と遥先生。
「鞍上が若く経験不足、ウララリヴァーは抜群の末脚がある馬だけど追い込み一辺倒の不器用な馬・・・」
「更に言えば休み明けで体重増で・・・このレースは先行馬が少なくてスローペースは必至と来てるね」
「つまり?・・・」
「印つける理由が全く無いと言う事なの」
つまり勝ち目は限りなく無いって事みたい。
それでも単勝でウララリヴァーを押さえる先生達。
金額からして義理と言う感じ。
そして、いよいよレースが始まる。
「何か盛り上がってますね」
「最高峰のレースじゃないけど、一応重賞だからね」
よく分からない私だけど、大きなレースと理解はできた。
向こうの方で馬達が鉄の柵みたいな所に入っていく。
さっきゲートだと教えて貰った柵だ。
号令と共にスタート。
一頭、白っぽい馬が真っ先に飛び出して先頭を走る。
「ちょっ?!」
「うそでしょ?逃げるとか!」
先生達が驚く。
その白っぽい馬は最後尾を走る筈のウララリヴァーらしいのだ。
場内の他のお客さんたちも先生たちと同じ予想だったらしく、グランドスタンドが大きくどよめいていた。
「確かに最軽量のハンデで、スローペースだったらもしかするとは思ったけど」
「それにしても予想外でしょ、鞍上だって馬だってスタートあんま上手くないって」
この展開は本当に予想外だったらしい。
「このBLってなんだろうね」
「ボーイズ……いや違うわ、ウララリヴァーってメスじゃん」
梓センパイと愛華センパイがおかしなやり取りをしていた。
「ブリンカーだね…隣を走る馬の姿を見えなくするように矯正する道具だよ」
こころ先生が言う。
ウララリヴァーはひたすら逃げる。
2番手を走る馬とはかなり差が開いていた。
その頃、鞍上・・・
「いやぁっ!リバちゃんっ、全く言う事聞かないっ!」
泣きそうになりながら馬を制御できずにいるのはウララリヴァーの騎手、鎌田奈緒美であった。
グラドル級のスタイルを持つ巨乳美少女騎手としてデビューした今年20歳になる彼女は、デビューこそ華々しいものだったが、現在は完全に失速中。
アイドル枠とか客寄せパンダとしか扱われていない日々だ。
当然G1レースに縁は無いし、こんなG3レースですら久しぶりだ。
今回もウララリヴァーの主戦騎手が遠征中、代わりに頼む筈だった騎手は別の馬に乗り、更に頼もうとした騎手は第1レースで落馬して欠場。
それでウララリヴァーの管理厩舎所属の彼女が急遽乗り替わりとなったのだ。
「うわわっ!また、先生に怒られるぅっ!」
半泣きの奈緒美。
最近は追えず逃げれずで毎回調教師から怒られて自信喪失中なのだ。
「いやぁ!ママにも怒られるぅっ!」
因みに彼女の母親は奈緒美のバレット兼エージェントでもあり、奈緒美にとって調教師の先生より怖い存在だ。