憧れの先輩はいろいろヤバい 3
二人の顔が朱色に染まっているのは夕日のせいなのだろうか。そんな希海の顔を見た春秋は思わず視線を逸らした。
「じゃ、じゃあ何の用なんですか」
そっぽを向きながら小さく呟く春秋。その言葉を聞いた希海の瞳が………赤く光る。
「私とね、キス………してほしいの」
春秋はその言葉にしばし呆れながら考え込む。
…………今のは僕の聞き間違いだろうか?そう思った彼は聞き返そうと思った。
「キス、ですか?」
「ええ、そうよ」
その確認作業はむなしく、あっさり肯定の答えを返された。
「先輩、僕をからかってるんじゃ……」
春秋がそう言おうとした瞬間、希海がそれを遮る。
「――この目をよく見て。真剣でしょ?」
彼女は自身の瞳を指差す。春秋はその誘導を受けるように視線を彼女の瞳に向けた。
――彼女の瞳が赤く、紅く光る。瞳の奥で炎のような、そんな光が揺らめいた。春秋はその瞳をじっと見つめる。
綺麗だ。瞳に灯る朱色の光。しかし、その炎のような光を春秋は「異常」と認めることができなかった。そして、突然………
「あれっ…」
視界が歪むような感覚が春秋を襲う。未成年の春秋は知る由もなかったが酒を嗜んだことがある人ならばそれが「酔い」に似た感覚であることが理解できたかもしれない。
その感覚のせいで春秋の身体がよろめく。瞬間、内臓が浮くような浮遊感を感じる。
川原木希海……キチガイ黒髪ロングに押し倒されたのである。
…・…………………………………
あぁ、そうだ…そうして僕は今先輩に唇を貪られているんだ。その経緯を思い出す。あの瞬間からいまだに「酔い」の感覚は残っている。そしてその酔いは当然、春秋の思考も行動力も鈍らせる。
「ンッ……んぅ…」
いつの間にか春秋の名前を連呼するのをやめた希海は先ほどより控えめな声をあげていた。しかし春秋の咥内を犯し蹂躙しようとする姿勢は変わらなかった。
希海は春秋の唾液を吸い取り、自らの唾液を送り込んだ。それだけでは飽き足らず、彼の舌を吸い、舐める。ただ欲望のままに彼の咥内を犯し続ける。それでも強引に犯されているにもかかわらず春秋は不快な感情は抱かなかった。結局彼は彼女のされるがまま時が過ぎるのをひたすら待った。
どれくらいの時間が過ぎただろうか、窓から差し込む夕日は消えていた。
「今日はこれくらいでいいかしら。うん………我慢しましょう」
その言葉とともに希海から解放される春秋。希海が立ち上がると身体が自由になった春秋もゆっくりと立ち上がる。
「どうして、こんなことを……」
春秋はふらつく身体に鞭を打つ気持ちを持ちながら希海を見つめた。憧れの先輩から無理やり唇を奪われ咥内を犯された少年は、胸の内に複雑な思いを募らせる。春秋は決して希海のことが嫌いではない。ただ、もっといい思い出とともにその時を迎えたかった、と心の片隅で思っていた。
「大丈夫よ。どうせすぐに忘れるから。ほら、私を見て………」
希海が背筋を伸ばしその赤い瞳で春秋の瞳をじっと見つめる。
(あれ、先輩の瞳って、赤だったっけ?)
そんな疑問が春秋の中に渦巻く。しかしそう思いながらも、彼はその瞳を凝視してしまった。
「……………う」
途端、強烈な眠気が春秋を襲った。先ほどよりもふらつく足元。視界が暗転しそうになるが、ぐっと堪えて踏ん張る。
「安心してね、春秋くん。起きたら今まで通りの関係よ。あなたは私に憧れ、私はそんなあなたと仲良く過ごすいい先輩。何も怖がることはないわ。安心して、さあ――――落ちて」
落ちて
その言葉を聞いた瞬間、春秋は意識を手放した。