生徒会日和~Second Season~ 84
姉さんはお茶を一口すするとテーブルに片肘をついてニヤニヤしながら僕を見つめてきた。あの頃には全然見せなかった顔だ。
「何?」
「樹、会長になっちゃいなよ」
「え、ええー……」
いきなり言われて戸惑うしかない。それにしても…
「姉さん、なんか人が変わった気がする」
「ふふ、社会人を経験すれば樹もわかるわよ」
「社会人になったら、って?」
「社会人になったら、当然、いろんな人に会う。すぐに、自分の当たり前が、全然当たり前じゃないんだ、って、分かった」
「そうなんだ…」
「……だから、ええと…以前は、樹に、つらく当たってしまったかも、しれない。それは、ごめん」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
姉さんの謝罪の言葉。
あの頃の姉さんしかなかった僕にとっては、考えもしなかったことだ。
「私もね、仕事でいろいろやらかして上司に怒られることもあったわけ。そこで昔樹に当たり散らしたりわめいたりしたことを初めて後悔したなぁ…」
「姉さんでも叱られることがあるんだ」
「剣道と仕事、学生と社会人では大きく違うものよ」
しばらくの間、沈黙が流れた。以前同じようなシチュエーションがあったらかなり緊張していたと思うけど、今はそんな雰囲気はない。
その後、僕はさっき戸惑ったことに立ち戻った。
「ねえ、姉さん」
「何?」
「何で、会長やった方がいい、と思ったの?」
不思議がる僕を見ながら、姉さんは少し考えて言う。
「なるかならないかはその時の運次第だけど、樹にとっては絶対いい経験にはなるんじゃないかな。もちろん会長じゃなくても生徒会の役員であり続けることでもいいし。違う2つの視点から学校を見ることができるよ」
自らも生徒会長だった姉さん。今なら何かアドバイスとかをくれるだろうか。
「大変だけど、その分得るものも多いと思うよ」
「姉さんの経験者としてのアドバイスとか…」
「私はねぇ……あんまり参考にしない方がいいような…正直さやかや麻由美の力を借りてばっかだったからね。樹もあの2人を頼るといいし、私にとっての2人みたいな頼りになる相棒を作るのも重要かな」