普通の高校に女子限定クラスができた理由 2
8組の教室は校舎南側の1階にある。
1年生では、ひとつだけ、なぜか離れた場所にある。
「きれいな校舎だね〜」
「そうだね」
奈津美にはそう返すが、恋は少しばかり疑問に思っていた。
何故、自分たちのクラスだけほかと離れた場所にあるのか。
奈津美に聞いても、知ってるはずがないだろうと思い、心の内にしまっておいた。
中も他とは変わらないごく普通の教室だ。
すでに十数人の生徒が来ていた。
「(見事に女の子ばかりだなぁ)」
クラス発表の用紙は見たが、実際を見てさらに驚く。
「(まあ、男子の中に放り込まれるよりはマシか)」
恋の席は窓側よりの一番後ろ。
隣の席の少女と目が合い、軽く会釈する。
「よろしくね」
「あ、うん、こちらこそ」
「私、興津愛」
「紺野恋です」
愛は恋と背格好は一緒くらい。
柔らかな笑顔が印象的な少女だ。
その頃、さきの男子二人は、奈津美と恋に気づかれないようにあとをつけていた。
「この角を曲がったら、8組なのか?」
「しっ、直樹、声が大きい」
「ちょっと、ここに男子が何の用!」
二人の前に、美少女と言っていい女性が立ちはだかった。
もし制服を着ていたら間違いなく彼らは彼女を生徒と思っただろう。
しかし服装から判断して、教師と思うしかなかった。
「あ、ええっと」
「ここは、男子禁制なのですか?」
教師はその質問には答えなかった。
「何年何組、名を名乗れ」
「ええっと、一年七組 三宮直樹」
「同じく一年七組 小坂礼 です」
「オリエンテーション、遅れるよ」
「は、はい…」
「すいませんでした…」
そう言われてしまうと引き下がるしかない。
礼と直樹は自分たちの教室に戻るのだった。
「あの人が8組の担任かな」
「みたいだな。なんかちっちゃくて可愛い。あとおっぱいでかい」
「…お前なぁ」
彼らが7組に戻って席についてしばらくしてオリエンテーションが始まった。
入ってきた担任が男だったことは彼らのテンションをやや下げたが、その先生が若くハツラツとした感じだったのは救いだった。
先生はこれからの高校生活に必要なことを説明していき、最後に質問を受け付けた。
「はい」
礼が手を挙げた。
「小坂くん」
「1年8組は、女子クラスなのですか?」
「そうだ。もうチェックしたのか」
「なぜ女子クラスがあるのですか?」
先生はちょっと咳払いをした。
「学校の運営に関わる質問には答えられない。例えば、『なぜ僕は7組なのですか?』と言っても答えがないのと一緒だ」
「では、8組やその周辺は、男子禁制なのですか?」
「そういうルールはいまのところないが、理由もなく行ったら不審者扱いされるぞ」