君の人生、変えてあげる。 93
着替えで短時間とか、美術でとか、必然性があるならともかく、この状況で、僕の体の傷を見せながら…というのは、ちょっと躊躇してしまう。
僕は、Yシャツまでは脱いだ。
「シャツにはなるけど…やっぱり、着たままにしようか」
「うーん」
皐ちゃんも、やはり同じように躊躇しているようだ。
その間にも、他のメンバーは次々とすっかり脱いで、モップやぞうきんで掃除を始めていた。
「皐ちゃん、たっくんと最近仲いいのかな? 文芸部見学以来?」
ひーちゃんが2人でひそひそ話している皐ちゃんと僕にそんな風に声をかける。
「え、ちがう、そんなんじゃ…」
皐ちゃんは視線をそらせ、顔を赤くして俯いてしまう。
僕が皐ちゃんと服を脱ぐのを躊躇しながら掃除していたとき…
「たっくんは、まだ躊躇ってるんだな」
「どうしたよ、アス。さっきからたっくんの方気にしすぎじゃない?」
「く、胡桃ちゃん…そ、そんなこと、ない…よ」
「アス、どうしたの?様子おかしいよ」
胡桃ちゃんは、飛鳥ちゃんを隅の方に呼んだ。
その時、皐ちゃんがぱぱっとYシャツのボタンをはずした。
「やっぱり、コンプレックス乗り越えるためにも、やっぱり脱ぐ」
そして皐ちゃんは一気にすべてを脱ぎ捨ててしまった。
…皐ちゃん、君はやっぱり強いと思うよ。
僕は心の中でそう呟いた。
皐ちゃんだって、意を決して脱いだ。
僕だって、今決めないと、男じゃない…意地のようなものが働いた。
僕もシャツとズボンを脱ぐ。
パンツだけは、とりあえず残して。
「たっくんも、決めたんだね」
皐ちゃんが言った。
「気にすることないんだよね、私たち『ありのままで』いいんだと思う」
少し前に流行った映画の印象的なフレーズを用いて、皐ちゃんが言った。
スマホが振動した。ズボンはまだ近くがあったので分かった。
深沢先生からクラス全員へのメールだ。
「明日の1時間目の体育は、遠くなった更衣室から移動する最初になるので、慣れないでしょう。
明日の朝のショートホームルームは、臨時に更衣室にて行うことにします。
着替え終わっていても、着替えの途中でも構いません」
ということは、深沢先生もこの更衣室のドアのことは知っているんだな。ということまでは分かった。
掃除はすすんでいく。飛鳥ちゃんと胡桃ちゃんが何か話していたあとに、伝言のようなものが、参加している他の人に伝わって行った。
「えっ、どうしたの?」
僕は、近くを通った胡桃ちゃんに聞いた。
「あとでわかるよ」
胡桃ちゃんはニヤニヤしながらそういった。
ひーちゃんが、皐ちゃんに何か耳打ちしている。
「ええーっ!」
皐ちゃんは、自らの両方の頬を手のひらでおさえて、多少大きめの声を上げた。