君の人生、変えてあげる。 90
「あの、府川先輩は文芸部には入っていないのですか?」
「うん、入ってないね」
題材はどうあれ、創作活動ではあるが。
「私の趣味は、他人には受け入れがたいものだから…理紗や美和子と同じ妄想の世界ではあるけど」
「だから一緒にするなと」
「住んでる世界は違うと思うけどなぁ」
菊川先輩は相変わらずジト目、高森先輩も珍しく表情を曇らせる。
「創作活動として、広く文芸と考えたいところだけど、かなりニッチな分野なことは間違いない」
黒田先輩は、淡々とそう言ったあと、こう続けた。
「先月のあのイベントはどうだった?」
府川先輩はVサインを出した。
「おかげさまで、うちのサークルは完売で」
あのイベント、って、もしかして我が国最大級の、同人誌即売会に…出店していたのか?!
「先月のイベント…って」
「コミケ。名前くらい聞いたことはあるでしょ」
「ええ…」
「校外のサークルって言うと聞こえは良いかもね。外バンみたいで」
…まあ、いろいろな人がいるものだ。
「先月のは、佳奈も行ったんじゃなかったっけ?」
府川先輩が磯村先輩に話を向ける。
そういえば、磯村先輩がどんな作品を書くのかは聞いていなかった。
「行ったよぉ。すごい熱気だったよね…って、あんたの方のジャンルじゃないからね」
「磯村先輩は、どんなジャンルを描いているんですか?」
「うん、アニメのニジを描いてるよ…コミケに出店するほどじゃないけどね」
ここにいるだけで、いろいろ分からない単語が出てくる…ニジって何だっけ?
(さっきの「外バン」は、ここでは聞く機会を逸したので、あとでスマホで検索した。学校などの外でのバンド活動、とわかった)
「あの、ニジって?」
「正式には二次創作物…」
そして磯村先輩はいろいろ説明を始めた。
二次創作物…磯村先輩の説明によれば既存の作品の登場人物や世界観を利用して作られた独自のストーリーのこと、だそうだ。
「コミケ限定のグッズとかあるからねぇ」
「あ、企業ブースも行ったんだ」
「企業ブース?」
「アニメを製作する会社…まあ『公式』だね」
…磯村先輩と府川先輩のやり取りは素人であろう僕にはわからないことが多かった…いや、ほとんどわからなかった。
(飛鳥ちゃんはこの間もまだ上の空だった)