君の人生、変えてあげる。 89
僕は高森先輩の「女子の妄想」の内容を思い出していた。
それは創作に役に立ちそうだが、菊川先輩の方の妄想は…
僕は小声で高森先輩に尋ねた。
「あの、菊川先輩の妄想をあまり創作に生かすとまずいのでは…」
「まずい、って?」
「18禁のようなものができてこないか、と思って」
「それは大丈夫。あまりにも、見せられないようなものが出てきたらボツになるからね」
「ボツ原稿は、部外秘扱いになる」
黒田先輩が、横から補足した。
「確かに、理沙の原稿は、ボツになることは、たまに、ある」
「うーん、気を付けては、いるんだけど…」
菊川先輩が頭を掻く。
続けて、黒田先輩が僕の方を向いて、こう言った。
「部外秘を、読みたい場合は、入部」
うーん、うまい勧誘だな。
「それは…まだ何も決まってなくて、考えている段階なので」
「うん、よく考えるといいよ」
…いや、ここで入部を考えたら、まるで僕が18禁作品が見たい人なのではと思われてしまうのでは。
…明言は避けましょう。
「理紗の描く世界はすごいからねぇ」
「…お前に言われたくない」
菊川先輩の背後から声をかけた人が。
…初めて見る人だ。
「ねえねえ、君、男子校にいたことがあるんだって?」
「僕ですか?」
「男子は君しかいないじゃん」
僕がはじめに男子校に入ったことって、そんなに知られているのか?
「はい」
「男子校って、リアルにBLってあった?」
この方か!歩ちゃんが言っていたのは!
「…い、いや、僕も、前の学校にはひと月しかいなかったので、そのようなことは全くわからないです…」
「そっかあ」
腕組みして何かを考える先輩。
「…千夏、自己紹介もなしにその発言はないぞ」
「…理紗だって一緒だったでしょうが」
菊川先輩と、それに突っ込む磯村先輩。
その場の先輩方がひとしきり笑いあった後、その、千夏と呼ばれた方は、言った。
「私は、府川千夏。あまり大きい声では言えないけど、BL作品を描くのが趣味なんだ」
大きい声では言えない、といいながらも、あまり声を落としていないような。