君の人生、変えてあげる。 77
水泳の時間は何事も無く終わる。
…いつもに比べてみんなよそよそしく見えたのに、菜々子先生が不思議そうな顔をしていたが。
…きっと、何か気づいているのだろう。
授業を終えて教室に戻る。
「ごめんね、たっくん…本当はこうしたくはなかった…」
胡桃ちゃんが声をかけてきた。
「ありがとう。でも、これがきっと正しい姿だよね。僕は一人だけの男子なんだし」
「でも…たっくんは…大事な仲間なのに…」
胡桃ちゃんは、短い間、僕の手を握った。
そうこうしているうちに4時間目が始まり、お昼になった。
「私、香里ちゃんと、みかちゃんに会ってくるよ」
飛鳥ちゃんが言った。
「僕も行く」
「たっくんは、まだ今は行かないほうがいいかも…ごめん、これはたっくんがいるとまずい、というわけじゃなくって、状況が分からないから」
「うん、分かった」
そして、昼食の食堂には飛鳥ちゃんと香里ちゃんはいなかった。
飛鳥ちゃんと香里ちゃんがいない代わりに、いつもはお弁当だったはずの胡桃ちゃんと律ちゃんが加わり、人数的にはいつもと変わりなく、気分的にも和らいだ。
「絶対に、たっくんに悪いことなんて起こらないさ」
律ちゃんのその言葉を信じたい、今はそう思った。
食堂から教室へ戻る途中、よく知った顔の人が視界に入る。
その人は、僕に気づくと、小さく手招きしているように見えた。
物静かな生徒会会計・景さんだった。
景さんは、僕を資料室のようなところに誘った。
椅子はあって、座るよう促された。僕は座った。
「立候補の話、具体的に進んでる?やはり、君だけじゃなくて、共学化推進で定数いっぱいに立てるの?」
景さんは小さい声でそう言った。敢えて声を落としているのではなく、この人のいつもの声なのだろうが
「ええと…」
答えていいのかわからなかった。この人とはまだほとんど話していないので、どっちの味方なのかわからない。
「安心して。私は相木純の側でも湯沢春香の側でもない」
これが仮に本当でなくても、表面的なことはどっちにしても伝わるのだろうから、僕は話すことにした。
「はい」
「ほかの人は1年生?」
「はい。全員1年からです」
景さんは、少し間を置いた。
「湯沢春香の側も、定数いっぱいに立てるように進めている、と伝わってきているけど、今のところ2年生ばかりで、1年生からも立てようとしているみたいなんだ」
景さんは淡々と話す。
「君たちも定数いっぱいで進めるなら、1年生だけで固めるよりも、2年生の人とも折衝した方が良いと思う」
「…しかし」
「そんなに恐れることはないよ。話してみればわかってもらえる」
景さんは続ける。
「湯沢春香の側は、思いのほか苦戦しているらしいんだ」