君の人生、変えてあげる。 76
飛鳥ちゃんが前に立った。深沢先生は後ろに座って見守る。
「実は、2組の藤澤未華子さんが生徒会本部の書記に立候補を考えている、という話があるのですが、その理由が男子の前で裸になるのが不安で…のようなことを考えたからみたいです。もちろん、それは誤解なんだ、っていうことを伝えればいいとは思うのですが」
クラスがどよめいた。
「綾ちゃん、立候補検討の話、何か続報はありますか?」
「メールで送っている以外には、ない。ただ、私が知っている話は、当然、他のクラスの選管にも、伝わっている」
飛鳥ちゃんは少し考えるような間を置いた。
「…藤澤さん自身は、ただ不安で、そういう発言をしたいだけ、で共学化に反対とかではないかもしれません」
「うん、別に、みかちゃん、男子自体を嫌っているとかの話は聞いたことない」
香里ちゃんがそんなようなことを言った。
「でも、共学化に反対の人は、注目していると思うのです」
飛鳥ちゃんはつづけた。
「それで、何人かのところに届いたこのメール『盗撮に注意』」
「私『何かあったの?』って返したら『そういう噂』と一言だけ、返ってきた」
律ちゃんが言った。
「メールの発信者は…もし、私が受け取ったメールとほかの人のが同じものなら『どっちの味方もしない』って言ってくれています。だから…これは私の推測でしかないのですが、このメールは、反対派の動きを私たちに警告してくれた…つまり、藤澤さんの立候補検討の理由を聞いた反対派が、私たちの着換えを盗撮して『ほら、共学化すればこんなことに』って言うことに、使うかもしれない、と思ったのです」
一同、しんとした
「ドアのガラス、なんとかふさげないかな」
沙羅ちゃんが、ドアの方を見ながら言った。
教室は、着替えの時は外へのカーテンは閉めているが、1組は端で人通りも少ないこともあって、ドアのガラスは何の遮蔽もなかった。
「今そうしたら、余計あやしまれちゃう。ここは、更衣室でもお風呂でもなく、教室なんだし、例えば誰かが間違ったふりをして開けても、誰も止められない…」
飛鳥ちゃんは下を向いて、小さめの声でそう言った。
飛鳥ちゃんは、再び前を向いて、こう言った。
「そのため、着替えは、以前の通りにタオルで、そして、たっくんには、申し訳ないのだけど他のところで着替えてもらう、というのは、どうでしょう」
しんとした状態は継続した。深沢先生も何も言わない。
「…せっかく、みんなで裸の付き合いができるようなったのに…こんなことって…」
胡桃ちゃんが、悔しそうに言った。
「そうよね…せっかくなのに…」
皐ちゃんは、制服をちょっとめくって、傷をさするような動作をした。
「それは仕方がないかもしれない。後のことを考えると」
茉莉菜ちゃんは、静かにそう言った。
しばらく、賛否の意見が出たが、そんな風に、今の着換えをつづける方の意見は「やめるのは残念」「圧力に負けないようにしよう」そうでない方の意見は「無難だ」「仕方ない」ような雰囲気で、何かいいアイディアは誰も思いつかなかった。
その後、深沢先生が、口を開いた。
「そろそろ時間です。続きは、6時間目のホームルームで。原田さん、皆さん、まずは、今の着換えをつづけるリスクを考えると、次の水泳はそうしてみたら…酒本君はどう思う?」
「あの、僕のことで申し訳ないです…今日からほかのところで着替えようかと」
「じゃあ、酒本君、国語教材室で着替えるのはどう?授業終わったらついてきて」
「そうですね…それで、異議ありませんか?」
消極的な、拍手がなった。
「…異議なしと認めます。つづきは6時間目に」
その後、僕は深沢先生について行って国語教材室に行き、本棚に囲まれて一人着替えた。
思ったより広かった。水泳が終わった後に来ても、本を濡らしてしまうような位置にはなかった。
そして、3時間目の水泳に合流する。いつもと変わらない授業だが、何か、気のせいか、他の人との間にちょっと壁を感じてしまった。