君の人生、変えてあげる。 69
大森先輩は改めて僕たちの前に座った。
「環境…というと、校内の環境から地球環境まで幅広い、けど、できることは、残念ながら、少なくて…酒本君は、環境ボランティアのどんなところに興味を持った?」
そう、ここは、僕がパンフを見たときに「興味ある」とチェックした部活の一つなのだ。
「ええと、植林に、興味があります」
「植林か…残念ながら、それはやっていないのだけど…もちろん酒本君が入部して企画するなら、それはできる。なんで植林に興味があるの?」
「ええ、なんか、恥ずかしいのですが…地球温暖化に少しでも…とか思ってしまって」
「それは、恥ずかしく思うことではないよ…それは一人一人が、考えたほうがいいこと、と思う…それで、うちは、それに近いこととしては、里山保全活動ならやっている…明智さん!お客さんをフィールドに案内してあげて」
大森先輩は、今ドアを開けて入ってきた人に、そう言った。
「えっ、明智さん?」
「あ、みっちゃん!」
「え、アスちゃん?」
思わず声が出た。
大森先輩が呼んだ人、それが1年6組の委員長・明智充代ちゃんだった。
「あ、その人がそうなんだ」
「酒本拓真です、初めまして」
明智さんは、かなり、おどおどしたような表情をした。
「はい、大森先輩…じゃあ、アスちゃん…酒本君、雑木林に、案内するよ」
明智さんは無言で前を歩いて、学校の裏口から出て、丘を下り始めた。
この方向は、普段登校で通らない方向だ。
「『里山』については、説明受けてる?」
「いや、まだよくわからなくて」
「詳細は、ググってもらえばいいけど…まあ、見るのが早いよ」
道の片方に、鬱蒼と茂った森林があるかと思うと、急に、明るい、木がまばらな、林が出現した。
「ここが、私たちの里山保全活動のフィールド」
「あっ、もしかして、あれ、椎茸の木?」
飛鳥ちゃんが、1m位に切ってあって、立てかけてある木々を指してそう言った。
「そう。知ってた?」
明智さんはちょっと笑顔になった。
僕たちは林に入った。木陰が、涼しい。
こんな場所があるなんて知らなかった。
学校の方だと日差しが強くて暑いけど、ここに来るとそれは和らぎ、風も涼しげで気持ちいい。
「森も人間と一緒で、生きているんだ」
明智さんは言う。
「さっきの椎茸もそうだけど、うちの部で植林活動も定期的にやってるんだ」
「こっちは…アオダモ?」
「そう、野球のバットの原料になる木」
「アオダモは、北海道で植林されているんだって。北海道のアオダモがバットに最適らしくて」
「ふーん」
「ここは、クヌギやコナラが多い。どんぐりがなる木。それで、そこの椎茸も、間伐したクヌギやコナラから作っている」
「木、切るの?」
僕は、目の前にいる明智さんがチェーンソーとか使っているシーンを想像できなかった。
「ここは、地元の団体と一緒に保全活動をしているの。さすがに、危険な作業は、社会人の、経験ある人がやるよ」
“外部の団体との関係もあるから、少なくとも男子だから、といって避けられるような部活ではないはず”という飛鳥ちゃんの言葉を思い出した。
「明智さんとかはどんなことを?」
「春から秋にかけては、草刈り、間伐するときは、それを手伝って、あとは、椎茸菌打ち、といって、短く切った木に椎茸菌を植える作業とかをやっている」
僕たちは、フィールドの中心あたりの、木でできているテーブルを囲む椅子に座った。
「…昨日は、ごめん」
明智さんは、僕と飛鳥ちゃんをまっすぐ見て、改めてそう言った。