君の人生、変えてあげる。 66
沙羅ちゃんがそう質問した。
佐智子先生は、改めてクラス全員の目を見るように、語りかけた。
「これが、今回、私が一番話したかったことです。いつかは皆さんが経験するかもしれないこと。でも『案ずるより産むがやすし』です」
先生は一息ついて、語り始めた。
「私の場合は、入院は割と余裕をもってできたので、急に、ってことはなかったです。陣痛の周期がだんだん短くなって、ああ、生まれるんだ、って思って…母が背中をさすってくれた。その時は、ずっと続くかと思った、長い時間がかかったような気がした…でも、あとで聞いたら、一時間くらいだったらしい。分娩台に乗って、いきんで…そして、娘の、泣き声を聞いたときには、痛みはすっと消えて、本当に、感動しました」
佐智子先生は、当時を振り返るように、そう言った。
クラスの子の中にも、感動して目頭が熱くなったような子もいた。
「子供が産まれて、よかったこととか、変わったこととかありましたか?」
茉莉菜ちゃんが質問する。
「そう、だなぁ…やっぱり、責任感は強くなったかな。私は特にだけど、娘を大切に、大事に育てて、守っていかないといけない、そういう思いは強くなったかな」
「娘さん、名前は何というんですか?」
歩ちゃんの質問。
「さくら」
“さくらちゃん!””かわいい名前”などの声が上がった。
「先生、ちょっと一般的な質問なんですが、先生はご両親の協力があったから大丈夫だったと思うのですが、かりにそうでなかった場合、この市の保育園などの状況はどのようになっていますか?」
麻由ちゃん、新聞委員らしい質問。
「はい、私は、専業主婦の母がいたので、母がさくらの面倒を見ています。一般には…やはり、待機児童はゼロではありません。ここの市民か、この市で仕事を持っている母親が、優先的に保育園を使うことができます…過去の例からいうと、この市内の学校に通う人も、それと同等かそれ以上の優先度で入れているようです」
現実的な話に、一瞬教室はシーンと静まり返る。
「まだ先の話だけど、さくらの今後をどうしようか、とは母と今から話していたりします。厳しい面はあるかもしれないけど、私はこれからも精一杯さくらを育てていこう、と思ってます」
そう語る佐智子先生に対し、自然と拍手が沸き起こった。
「ふふ、ありがとう」
僕も、何か言わずには、いられなかった。
「先生、自分が、そういう立場になったら、決して、逃げたりは、しません…しかし、実際に、その立場だと、妊娠して、出産して、子育てする…本当につらいのは、女性の側に、どうしても、なってしまいそうで…その立場になったとき、男には、どうあってほしいですか?」