君の人生、変えてあげる。 57
…歴女…
歴史が好きな女の子、だっけ。
「うちの部活自体アニメやゲームが好きなオタクの集まりだからねー、私や伊織なんかも、ひーちゃんも鈴ちんも…たっくんも興味があれば」
「うん、まあそれなりにね」
『文芸部』の表札がかかった部屋の中へ、歩ちゃんの後について入る。
暗めの部屋に、斜めに光が差し込んでいた。
「黒田先輩、酒本君と、日比野さんを、連れてきましたよ」
「ようこそ、文芸部へ。私は、部長の、黒田勝代」
黒田先輩は、分厚い本を閉じて、そう言った。
逆光に近く、あまり表情は読み取れないが、いかにも、文学少女、という感じは伝わってきた。
「座って」
僕と皐ちゃんは、近くの椅子に座った。
歩ちゃんは、紙コップで冷たいお茶を出してくれた。
「うちの文芸部は、簡単にいうと、自分の好きなことを、この会誌に書いて、出す、というのが、活動」
黒田先輩は、結構ボリュームある「会誌」を僕たちに差し出した。
「必ず全員が原稿を出さなければならないわけではなく、活動も、執筆自体は、基本的に集まってやるものでもないから、あまり拘束はない部活かな。ほかと掛け持ちしている人も多い…今日は、噂の酒本君が来る、っていうことで、メンバー結構集まるけどね」
黒田先輩が、ちょっと笑ったように見えた。
「質問ある?」
「あの、黒田先輩は、歴史がお好きなんですか?」
一番聞きたかった、生徒会本部役員と掛け持ちできそうか、ということは説明されてしまったし、文芸について質問を思いつくほど予備知識がないので、さっき歩ちゃんから聞いた話を出してみた。
黒田先輩は、さらに表情を緩めたみたいだった。
「そう。こういう歴史物を読んで…」
先輩がさっき読んでいた分厚い本のタイトルを見せてくれた。
「自分で歴史小説…的なもの…を書いている」
先輩、一息入れて、
「酒本君は、戦いをひかえているんだって?」
「え…あ、はい」
「戦いは…一般論で言うと、戦わずして勝つのが一番。味方が圧倒的に多い、とか、そう見せかけるとかで、相手を説得する。また、相手が多くても、いくつかのグループの連合軍だったりする場合は、お互いの信頼を損ねるような噂を流して、相手の分裂を誘う…」
黒田先輩は、史実から、具体的にいくつかの例を説明してくれた。
ふと隣を見ると、皐ちゃんも身を乗り出してこの話を聞いていた。皐ちゃんも歴史好きなのかもしれない。
そうこうしているうちに、他の方々も集まってきた。
伊織ちゃん、ひーちゃん、鈴ちゃんを含め十数人ほどが集まる。
思った以上に賑やかかもしれない。
そして、歩ちゃんが言ってくれたように、僕のことを好意的に迎え入れてくれた。
「みんな集まったね」
落ち着いたところで、黒田先輩が部屋の真ん前に立ち、話し始める。
「みんなも知ってるけど、今日はうちの部活に見学に来てくれた子がいます。酒本拓真くんと、日比野皐ちゃん。いきなりで悪いけど、少し自己紹介でも」
僕は、いきなりでちょっと戸惑ったが、立ち上がって自己紹介した。
「はじめまして…でない方もいますが…1年1組に、この9月に編入した、酒本拓真といいます。まだ一週間で、慣れないことも多いです。部活の見学は、ここ文芸部が初めてです。まだ入るかどうかは、考えるところですが、いろいろ、教えてください」
拍手で迎えられた。
「質問いいですか?」
一年生のだれかが手を挙げた。
「まず、自己紹介を終わらせましょう。日比野さん」
皐ちゃんが立ちあがった。
「本多さん、喜多村さん、山岸さん、秦野さん、そして酒本君と同じ1年1組から見学に来た、日比野皐と言います…」