君の人生、変えてあげる。 58
皐ちゃんに合わせ、2人で向こうにいるみんなに頭を下げる。
直後、拍手が起こる。
「2人にはうちの部活の雰囲気を楽しんで欲しいかな。それで、仲間になってくれたら、私としても嬉しいな」
黒田先輩はそう言った。
「じゃあ、以後はそれぞれの活動に入って。酒本くんと日比野さんは…佳奈ちゃん、ちょっといい?」
「うん、もちろん!」
佳奈ちゃん、と呼ばれた女の子が、僕らのところにやってくる。
「副部長の磯村佳奈。よろしくね。みんなの活動を見ながら、いろいろと説明するね」
「はい、よろしくお願いします」
何人かのメンバーは、ノートPCを取り出して、キーボードをたたき始めた。
「来て執筆する人は、こんな感じになるよ」
さっき「質問いいですか?」と言った子の横を通った。この子は、見たことがあるような気がする。
「磯村先輩、あの、改めて、質問いいですか?」
「はい、美弥ちゃん」
「酒本君は、書きたい分野とかありますか?」
思い出した。この子は美術の時間に会った。だとすると2組。
「…あ、私は、1年2組の倉元美弥っていいます。よろしく」
「よろしく…書きたい分野…といっても…あまり考えてなくて…」
「最初は誰だってそうだよね。でも心配することはないよ」
口を挟んだのは磯村先輩だ。
「テーマは自由。みんなそれぞれ思い思いの作品を作ってる」
「美弥ちゃん…は、どんなものを書いてるの?」
「私は、恋愛小説かな。自分が好きなドラマとか漫画を参考に考えてね」
その隣では…
「へぇー…すごいなぁ…」
皐ちゃんが思わず声を上げる。
プロの作品にも匹敵するであろう漫画を描いていたのは鈴ちゃん。
こんな才能を持っていたのかと、僕も驚いた。
「鈴ちゃん、すごいと思うよ」
「ありがとう」
「こんなプロのような漫画を書いてるんだね」
「うちの文芸部は、小説を書く人も、こうして漫画を描く人も、両方いるんだよ」
その後ろでは、ひーちゃんがクッキーを食べながらマウスを動かしていた。
「皐ちゃん、たっくん、クッキー食べる?」
「食べる」
「ありがとう」
僕と皐ちゃんは、ひーちゃんからもらったクッキーを食べ始めた。
「ひーちゃんは何を書いているの?」
「今は…取材…と称してネットで情報収集してる…」
画面を見ると、確かにウェブブラウザが立ちあがっていた。
「こんな風に結構自由な部活だよ」
「…原稿出す人は、来月の文化祭に出す会誌に向けて書いているよ」
磯村先輩が後ろから説明した。
「こんな風にバラバラに活動している感じでも、ここに来ていることで、いろいろ情報交換をする」
目の前では、歩ちゃんがノートPCの画面を見せて伊織ちゃんと何か話していた。
「ねえ、酒本君、こういうとき、男って、どういう反応をするのが正しい?」
まだ名前のわからない二年生の先輩が、僕に画面を見せた。
!?
見せられた画像に、僕は思わず驚く。
上半身裸、下半身は下着だけ…という女の子が、驚いたように振り返る、というイラスト。
イラストの女の子は可愛いんだけど…
「えーと…理紗、相変わらず過激だし、初対面の子に自己紹介もなしにそれはどうかと思うよ」
「あっ、そうだ!ごめん!」
理紗さんというその先輩が、磯村先輩に注意されて、目の前で両手を合わせ僕に詫びる。
「先に言うべきだったね。菊川理紗。よろしくね」
「あぁ、こちらこそ、よろしくお願いします」