君の人生、変えてあげる。 532
昼休みは生徒会選挙の噂話を耳にするだろうから食堂は避けて、購買で適当にパンとジュースを買って屋上で1人ゆっくりしようと思った。
今日に限っては僕の心情を察したのか声をかけてくる子もなく、予定通り僕は屋上で1人のお昼をとる。
「うまくいくといいけど」
空は雲ひとつない青空。時々吹く風が心地よい。
僕の頭に、一瞬、最悪のケース、僕がこの学校から去らなければいけないケースがよぎった。
この幸せな日々が、終わってしまう…
僕は頭を振った。
たくさんの味方がいるんだ…そんなことは、きっと、起こらない…
何人もの人の顔が、そして裸が、頭の中を流れる…ああ、今はそういう状況じゃない…僕は妄想を止めた。
昼休みもそろそろ終わる。僕は教室に戻った。
「結果出たら、きっと、祝勝会しよう、みんなで」
授業が始まるまでの短い時間に飛鳥ちゃんはそう言った。
午後の授業も身が入らずに過ぎていき、放課後、投票の時を迎えた。
投票場所は近くに設けられ、僕たちが行くのは一年一から四組のためのところだった。
「順番に並んで」
選管委員の綾ちゃんが短い言葉で皆に指示を送る。
室内は投票箱と記入スペースが設置された簡素なつくり。
このために空き教室を整理したようだ。
「用紙に役員になってほしい人の名前を記入する」
そう言って一人ずつ、投票用紙をもらい記入していく。
「まずは、会計」
会計はみどりちゃんと小春先輩が立候補していて定員二名だから信任投票。二名まで名前を書いていいと説明に書いてあるので両方の名前を書く。
次に「書記の投票です」と一年の他のクラスの選管の子から紙を渡される。
ここは定数二に三人が立候補しているけど、椎名先輩が近い人たちに「棄権か白票でいい」と言ってくれているらしいので、大丈夫だろう。佳奈さんと祐紀先輩の名前を書いた。
いよいよ副会長の投票。僕は、緊張しながら、自分の名前を、丁寧に、書いた。
「酒本拓真」
いつもなら何のことはない、普通に書いてる自分の名前。それをこんなに緊張した気持ちで書くのは人生で初めてだった。
「書き終わったら順にこちらに投票を」
1年生の選管の子(綾ちゃんとは違う、名前もクラスもわからない子)に促され、それぞれの投票箱に用紙を入れた。長かったような短かったような緊張の期間が終わり、ホッと胸をなでおろす。
投票所から出て、僕は皆と別れてトイレに行った。
トイレから出ると、不意に後ろから
「お疲れ様、たっくん」
と声をかけられた。ビックリして振り返ると、佐智子先生がいた。