君の人生、変えてあげる。 519
「僕もそう思っています」
「うん、だから、この選挙では共学に賛成か反対かというのを決めるんじゃなくてそのための話し合いを行うことについて一歩前進していく、みたいな感じで…」
「ええ、理解してます」
僕は気になったことを椎名先輩に尋ねた。
「先輩は酒本子愛さんとはどんな話をされたんでしょうか」
椎名先輩は遠くを見るような表情をした。
「…これを説明するには、少し前に遡らないと話が繋がらない」
「はい」
「理事会が共学化を発表したばかりの時は、反対の人が多かった。実は、その時は、ちゃんとまとまって、主張すれば、共学化を阻止できそうな雰囲気があった」
「そうなんですか…」
「それで…ちょっと言いづらいけど、君が来て、空気がだんだん変わっていった」
確かに、そういう説明はどなたかから聞いたことがある。
「私たちも、そういう中で、本当に共学化を阻止するのは、あきらめて、みんなで話し合ってなるべくいい方向にもっていこう、という方向に転換しようとした…その頃に、急に現れたのが、酒本子愛さん。一言でいうと、空気が読めていないのか、っていう人だった」
椎名先輩は当時を思い出したのか、ため息を一つついた。
「私が同じ考えなのを向こうが知ったのか、ある日教室に来てね。学園から男子を排除するために協力してくれって。いや、私はそういうつもりじゃないのに…彼女が接近したことで私まで変な印象を持たれてしまった。彼女の思考は、今の学園の主流とは逆行してる。でも…」
「さっきの演説ですね」
「うん、ちょっと意外だった」
椎名先輩は続ける。
「彼女もいろいろ考えたんだろう、と思う。演じてるのか、ほんとにキャラを変えたのかのかは分からない。でも、どうしたら人から受け入れられるのか、ってことは、理解したんだな、って思った」
「彼女も馬鹿ではなかったってことだよね。感情のまま男子はいらない、排除しろって主張しても誰もついてこなくて結果ただの痛い人になってしまうだけ。うまくこちらのことも考えながら支持を集めて票を得ようとしてるわけか」
勝代さんが言う。
「私は彼女から距離を置いた。むしろ、君たちと話し合って共存できる道を選びたい……」
「ええ、僕はそうしていきたいです」
「ありがとう」
椎名先輩は右手を差し出してくる。僕も同じようにして、握手した。