君の人生、変えてあげる。 460
質素な、よく片付いている、清潔感のある部屋のようだ。ようだ、というのは、陽菜さんが照明をつけず、よく見えなかったから。
陽菜さんは窓を開けた。
ひんやりとした風が入る。
「目はいいですか?」
「はい、一応」
「星見ませんか?」
僕は陽菜さんの隣に並んだ。秋の、結構夜もふけた時間。そのままでは寒いくらい。僕は自然に陽菜さんの近くに寄っていた。
「ここは東側に開けてるんです。ほら、オリオン座が登ってきている。もう、冬に向かっているんですね」
空に雲はなく、陽菜さんの言うオリオン座の他にもたくさんの星が見えた。
そういえばうちの学校には「星」の字がある。旧女子高時代からの名残で、天体観測の名所だと言われてる、と以前飛鳥ちゃんが言っていたのを思い出す。
「旦那様は大学の教授で、星に関する研究をされているんです。私も一緒に天体観測に行ったことがあります」
「いいですね」
陽菜さんの腕が僕の腰のあたりに回った。
僕も、半歩、陽菜さんに近づいた。
「あのときはほんとに満天の星!って感じで。星座なんて、逆に星がいっぱいありすぎてよくわからないくらいでした。それと、天の川、その時初めて見たんです…見たことありますか?天の川」
「いえ、ないです」
今も天の川までは見えない。
「今日はまだ、見えないですけどもっと星がきれいに見える時があるんです。その時は拓真さんもぜひ空を眺めてみてほしいなあと」
「はい、そうします」
僕らはいつの間にかお互いの身体、肌が触れるところまで接近していた。
陽菜さんは離れようとはしない。僕も離れたくはない。
「寒い…ですね」
陽菜さんは僕の正面に来た。どちらからともなく、腕を互いの腰に回した。
「あったかい…です」
陽菜さんは僕の目を見てそう言ったあと、そっと目を閉じた。僕は迷うことなく、キスした。