君の人生、変えてあげる。 439
「もちろんです」
一呼吸おいて話を続ける。
「僕たちは新しい方向に進めていこうと考えてます。でも、すべての人がその新しい方向を望んでいない、ということも理解してます。その人たちへの配慮をどうするか、広く意見を募ってより良い学校にしていきたいと思ってます」
星野さんがまた柔らかな笑顔に戻った感じがした。
「ありがとう」
ひとまずほっとするが、次の課題がある。
次に何人か手を上げている中で、景さんから教えてもらった人の一人、一番後ろにいる人を当てた。
彼女はおもむろに立ち上がった。
「酒本候補」
僕はどきりとした。今まで、麻由ちゃんとかに半分冗談でそう呼ばれたことはあったが、真面目にそう呼ばれるのは、初めてで、いやな予感を呼び起こすものだった。
「はい」
「理事長と会食したというのは、本当ですか?」
…理事長?
ああ、茉莉菜ちゃんのお母さんか。
会食……確かに、あの時胡桃ちゃんたち数人と一緒にプールに行って、そのあと茉莉菜ちゃんの家に行った。
「理事長の娘さんとはクラスメートなので、一度他のクラスメート数人と一緒に招待されて食事はしましたけど、その時は選挙や共学についての話はしていません」
「ありがとう、ございます」
その人はそのまま座ったが、何か、にゃっと、笑ったような気がした。
そのあと、みさちゃんが時間切れを宣言して、僕達は3組をあとにする。
「たっくん、さすが、堂々した答えでよかった。でも、ああいう人たちは、会った、って認めたことをネタに、いろいろ言ってくるかもしれない。でも、やましいこと、絶対ないから、毅然として」
みさちゃんが、廊下に出た直後に、そのように小声で言った。
その後、景さんからは『たっくんの演説とてもよかった』というメールが顔文字付きで送られてきて嬉しかったと同時にホッとする。
生徒会選挙に向けて全力を注いでいると同時に、僕にはもう一つの課題があった。
10月、転入して初めての定期テストが近づいていた。
普段の授業では何ら問題はないけれど、いざテストとなると少し不安なところも出てくる。