君の人生、変えてあげる。 43
料理自体は選ぶことなく、僕と飛鳥ちゃんはソフトドリンクを選んだ。
店の中や、まわりの他のお客さんの雰囲気は、幸いそれほど緊張するようなものではなかった。
ドリンクが来て、乾杯する。
そして僕たちはパンを食べ始めた。
車の中で、秀雄さんが会社でどんな仕事をしているのか、という話があったので、その続きの話があった。
あまりイメージできない領域に入る前に、秀雄さんは僕に聞いた。
「拓真君は、将来何になりたい?」
…将来かぁ…
正直、あまり考えていなかったりする。
昔はなりたい職業とか色々考えたことはあったが、それは夢であって、現実何になる、ということは漠然としていた。
「うーん…そこまではよく考えてなかったです…」
「うん、いいよ。若いからそういうこともある。僕の質問も漠然としてたかもね」
料理は、片仮名の説明で良くわからなかったが、まず小さくきれいないくつかのものの皿…「前菜」というそうだ、のあと、スープが出た。
「スープは音を立てて食べない」ということは知っていたので、それほど不自然でなく飲むことができた。
そのあと、飛鳥ちゃんがちょっと中座し、秀雄さんと二人になった。
秀雄さんは、ワインで少し顔が赤くなっているようだった。
「飛鳥ちゃんの大事な人が、よさそうな青年でよかった」
「大事な人、って…」
飛鳥ちゃんは、僕のことをどんな説明をしたんだろう。
「大丈夫、彼氏、とか、そういう説明だったわけではないから」
それは、ちょっとほっとした。
「それでも、飛鳥を、悲しませないでほしい」
「それは…」
「それは、他の女性を、喜ばせるな、っていう、意味ではない」
「えっ?」
「多くのメスに精子をバラまくのが、哺乳類のオスとしての本能だ」
えええっ…それは、コメントに困る…
「遊び人の叔父」って言っていたのが、少し見えたような気がした。
「聞いていると、君には、大人の男の味方が近くにいないような気がする」
「はい…」
「僕でよかったら、今後、何でも相談してくれ。『お金貸してください』とか以外なら」
そういって、秀雄さんは笑って、ワインをまた一口飲んだ。
『大人の男の味方』
父さん…厳しい人だったけど、仕事も出来て尊敬できる人でもあった。
でも、今はこの世にすらいない。
そして、前の学校の教師たちのせいで、僕は大人の男の人と接するのに、若干ながら恐怖心があった。
秀雄さんに会うのも、正直言って寸前まで不安だったのだ。
今…涼星高校は、すごくいい環境だけど、僕の周りはみんな女の人。
男の人生相談が出来る人は、確かに周りにはいなかった。
目の前でワインを嗜む秀雄さん。
いずれ、頼りになることもあるかもしれない。
そう思ったとき、飛鳥ちゃんが席に戻ってきた。