君の人生、変えてあげる。 382
朝食を食べ終えると勝代さんが全て後片付けしてくださった。
「今日はもうちょっと外を回ってみようか」
「はい、天気もいいですしね」
「1日だけじゃ、オススメのスポットは回りきれないけどね」
「そんなに?」
「だから、選挙が終わったらまた、ね」
勝代さんはこちらに向かってきて、僕の頬をそっと撫でた。
勝代さんは「山登りまではしない」と言って、この服装でも問題ないという内容のことを言ったが、靴はちょっと歩くには不向きだった。
「兄のでよければ」と貸してくれた登山靴と靴下は、幸いほぼサイズが合っていた。
水筒を持って、僕たちは出かけた。
「このお墓は、鎌倉時代の御家人の…」
のような説明は勝代さんが歴女であることを思い出させた。
お墓を見た後、ちょっと森の中のようなところを通っているとき、勝代さんはややこえをひそめて言った。
「もし…私が子愛さんとかの側の参謀だったら、こうする…」
「えっ?」
「…つまり、相手が私達の足をすくうとすると、こういうことが考えられる、ってこと」
勝代さんは一度言葉を切った後、続けた。
「一つは、スキャンダルをそれらしく流す」
「はあ……」
まあ、あり得る話ではある。
その人にとってマイナスの要素であれば評価を大きく落とすことにも繋がる。
「酒本拓真が休日を利用し先輩女子と密会、とかって」
「か、勝代さん…」
変な汗が背中を伝う。
「例えばの話だよ。他の誰かがいるわけがないし、私はたっくんの味方だもん」
「そうですよね」
「うん。わざわざ変装してもらって、こんな遠くまで来てもらったから今回のことは誰にもバレないよ…あとは、選挙までは、なるべく怪しい行動は取らない方がいいかも。誰かと会うときは複数で会う、とか」
「はい…」
“複数で会っても「怪しい」ことはある”と思ったけど、それも込みで誤解のリスクを減らしていこう、という勝代さんのアドバイスなのだろう。
「…もし、何かを取り上げられて、何か言われても」
勝代さんは少し間を置いて言った。
「はい…」
「毅然として。『友達の一人です』『相手の嫌がるようなことはしていません』『僕は誰にでも分け隔て無く接します』とか、言って。嘘ではないでしょ」
「はい」
「まあ、不倫ではないから、多くの人は別に問題とは思わないと思うけどね。過度に気を付けることはないと思う」
日が差してきた。天気はやや曇りだったが、太陽の方の雲がどいた。
「その二、は、座りながら説明した方がいいから、ちょっと一度話題を変えるよ…副会長が一旦辞めて再出馬する話は、管さんが情勢を説明して、辞めないように説得しているみたい」
秋ちゃんのお姉さん、春香さんのことだろう。
あの人も男が苦手で、僕らから距離を置いていた面はあったかもしれない。
その間にあちら側からも話があったのか……
景さん…あの日からすっかり印象が変わったな…僕のために一生懸命になってくれて、ますます負けられない思いが強まる。