君の人生、変えてあげる。 376
「うん!おいしいです!」
「よかった」
勝代さんも向かいに座って食べ始める。
そして、本格的に山に登る人は今の時期はもっと遠い、高い山に登るので、ここを基地に使うことがあるお父さんとかお兄さんとか親戚の方は、今の時期は来ないんだ、のような説明をした。
そのほかにもこのまわりには僕たちのほかには誰も居ないんじゃないか、とか思ってしまうくらいほんとうに静かだ。虫の声だけが聞こえる。
「ホントに静かですね」
「町の中心部からはかなり外れてるからね。それにここは登山道の一部だし…」
「誰がここを作ろうと」
「作ったのは私の祖父。山登りが好きで、登山の休憩所みたいな感じで作ったみたい。今は80歳も過ぎてさすがにできなくなったけど」
「たっくんは山に登ったりするの?」
「山登り、ってほどじゃないかもですけど…」
僕は、宿泊研修のときに柚希ちゃんとかとちょっと山に登ったこと、すばらしい景色を見たことを話した。
「そこ、私も連れてってもらったことある」
勝代さんはいつしか僕の隣に来ていた。
ストレートの黒髪が頬に当たるんじゃないかと思うくらい近づき。
その顔は美しく、今までとは違う興味津々な表情。
「えっと…」
スマホで撮った写真を勝代さんに見せた。
「うん、すごくいいね。ここからの眺めが特に」
またよからぬことを想像してしまう。
すると、勝代さんの肩が触れた。
「…宿泊研修…たっくんは、宿泊研修でも何人もの子と仲良くなったんだよね」
勝代さんは、そのように、ポツリと言った。
「…はい」
「でも、今晩は、今晩だけは…独り占め、して、いい?」
「はい、もちろん」