君の人生、変えてあげる。 38
「孫子の兵法の言葉」
古典の授業みたいだ…
「意味は、みなさん分かると思うけど、敵について知って、味方について知っていればどんな戦いも負けない、っていうこと。この選挙は、一つの戦いに、なると思う。そのために、敵について、味方について、もっと情報が必要。だから、応援したり広報したりすることと同じくらい、情報を集める役割は大切だと思うの」
飛鳥ちゃん、もしマンガだったら瞳に炎が見えるくらいに熱が入っていた。
「というわけで、みさちゃんは、お姉さん周辺の、味方の情報を、茉莉菜ちゃんは、お母さんからくる情報を、持ってきて。あとは校内新聞…麻由ちゃん、新聞委員会内では、たっくんのことは何か言ってる?批判的なこととか肯定的なこととか」
あとで聞いたが、この人は新聞委員の細川麻由ちゃん。
「たっくんが来てから、まだ新聞委員の集まりに行ってないから分からないんだけど…うちの校内新聞は、知っての通り、星ヶ丘女子時代から伝統的に理事会には批判的だった…ただ、それは『生徒の側に立つ』ってことだから、どっちの方向の記事を書くのか、まだ何とも言えない」
…麻由ちゃんの言葉を聞くと、この学校の校内新聞はかなり本格的のような気がした。
「全体的なビジョンはまとまっていないけど、委員長も含めて、みんなたっくんに興味を持ってる。感触がよければ、味方につけるかもしれない」
麻由ちゃんはそう言って微笑んだ。
「それで、情勢次第では、書記と会計に定数いっぱいの候補者をださないと、になるかもしれないのだけど、それは他のクラスの人にお願いしようと思う。このクラスから同じ役職に複数立候補したら票が分散する。これは私がお願いしようと思うけど、その人がたっくんを理解しないと味方になってくれにくいと思う。たっくん、そういう話の時は、来てくれる?特に宿泊研修のときとか交流のチャンス、と考えてる」
飛鳥ちゃんは僕に向かってそう言った。
「うん、わかった。他のクラスの人には、僕もなるべく会いたいと思ってる」
「そのときはよろしくね」
「うん」
突然決まった生徒会選挙の話だけど、みんなと突っ込んだ話も出来たし、秋ちゃんという強力な味方が出来て、ホッとしている。
この時間の後半は宿泊研修の詳細。昼間行く三つの班の打ち合わせに少しずつ参加して、多少僕がどこに行くのか分かった。
一日目午後:理恵子ちゃんの班で何かを作る(具体的なところはよくわからなかった)体験コース参加
二日目午前:飛鳥ちゃんの班で美術館とか博物館に行って一緒に昼食を食べる。
そして1人で路線バスに乗って、
二日目午後:沙羅ちゃんの班のハイキングに合流
という感じになるようだった。
今日は土曜なので、ショートホームルームを経て、これで終わり。
帰ろうとすると、飛鳥ちゃんが呼びとめた。
そう。明日の約束があるのに、まだ、具体的な集合場所も、携帯番号や無料通話アプリIDの交換もしていなかったのだ。
「ねえ…たっくん…ちょっと選挙の話」
そういって、飛鳥ちゃんは、階段の脇の人気の無い場所に呼んだ。
「そう…選挙の話とかしたくて…今日の夕方からは、暇?」
「うん…別に、予定は無いけど」