君の人生、変えてあげる。 370
気づいたら僕は勝代さんの上に、結構体重をかけたような感じでいた。僕は慌てて両腕とも床につけて体重をそちらに乗せた。
「ごめんなさい、重かったのでは?」
「そんなことない。うれしかったよ」
僕はゆっくり立ち上がった。勝代さんも上体を起こした。
いつも?のクールな微笑みとはまた違う、明るい笑顔を見せた勝代さん。
後ろから窓を通して漏れる日の光と相まって輝いて見えた。
「ありがとう」
「いえ…」
「たっくんとこんなことしなかったら多分一生経験出来なかったと思うの」
「そんなことないです。勝代さんは素敵な人ですよ」
勝代さんはちょっと目を伏せるような動作をした。
「これは、あんまり周りの人には言ってないことだから、言わないでね」
「はい」
「さっき『女としてより、人として』みたいなこといったけど、私は、男として生まれてきた方がよかった、とずっと思っていた」
「そう…なんですね」
「だから、今まで男子を恋愛対象とか見ることもなく、かといって、女子も、そうは思えなかった。私は、そういうこと、これからもずっと外側から見ているのかなあ、って、思っていた」
勝代さんは顔を上げ、僕を見つめた。
「でも、今は違うよ。正確には、今からは違う、かな」
「そう…なんですか?」
「たっくん、君のおかげ。たっくんと出会えたから、後ろ向きな気持ちを変えることができたんだ」
勝代さんが笑う。
今までのどんな顔より、魅力的だった。
勝代さんはすっと立ち上がった。
「お風呂、一緒に入る?」
「はい」
「お湯入れてくるね」
僕の返事を聞くと、勝代さんは弾んだような声でそう言い、すぐに給湯器のスイッチを入れ、多分そっちが浴室なんだろう、と思う部屋に行って、すぐ戻ってきた。