君の人生、変えてあげる。 346
最大の原因はやはり父親で、あの人は犬も猫も、動物自体が基本嫌いだったので何かを飼うというチャンスは全くなかった。
今自分で世話し続けられるかというと、それも自信はないが。
「多分実家には帰れない気がしてね」
景さんは少し寂しそうに言う。
「寮の周辺は野良猫多いですね」
「人懐こいでしょ、大きな声では言えないけど、私が餌付けしてるんだ」
景さんが窓へと視線を移すのを見て僕もそちらを見た。茶色っぽい猫と目が合った。
「外、出てみる?」
「はい」
僕は改めてちゃんとズボンを穿いた。あのすぐ後は、シャワーに行きたい気持ちがあったがいまはそれはもうどちらでもよくなっていた。
さっきの猫は、僕たちを待っていたようにそこに留まっていた。
「ほら、こっち」
景さんが呼ぶと、その猫は嬉しそうにこちらに近づいてきた。
人を全く恐れない。
別の場所から白黒のブチ模様の猫と、真っ黒な猫が現れた。
「あの子たちも仲間」
最初に会った猫は景さんの肩に乗っていた。
「かわいいでしょ」
「ええ」
僕は心からそう思った。
「この子は、トラ、って呼んでる。また安直だけどね。それで、その子は、ブチ、とクロ、って呼んでる」
ブチ とクロ は、景さんの足元に座った。
僕はどちらかというと猫が好き、とは言ったが、間近で猫に接した経験はほとんどなかった。しかし、恐れる要素なんて全く感じられなかった。
僕は、しゃがんで、クロ と呼ばれた猫に手を伸ばし、背中を撫でてみた。
いくら景さんに懐いてるといっても僕はまだすごく不安で、引っ掻かれるんじゃないかと思いながら恐る恐る背中を撫でた。
その不安は杞憂に終わり、クロは気持ち良さそうに鳴き声を上げ、その場に寝そべった。
「可愛いでしょ」
「はい…ホントに人慣れしてるというか…」
「ここに来たときは友達がいなくてね、この子たちが遊び相手」
「そういえば、景さんのクラスって…」
「3組。まあ、話したいことがあったらココか、食堂とか図書館の方がいいかな」