君の人生、変えてあげる。 333
「菅 景(すが ひかり)よ。覚えておいて。拓真君はね。前の学校で惨烈ないじめを受けてたの。死んでもおかしくない程のね。再起を図って我が校に来たのに言うに事欠いて「面汚し」だの「こんなところ」だの!あなたこそ狭量な排斥主義者よ、酒本子愛!」
景さんは啖呵を切るように一気に言い放った。
「どういうことなの…」
「あれ、生徒会の菅さんよね?」
「うわ、もろに鉄拳…」
「うちの学校を「こんなところ」って?!」
ネアさんと僕達とのやりとり、さらに景さんが拳を叩きこむに及んで食堂中が騒然となっている。
びっくりして動けない娘も多いけど、慌ただしい動きをする娘もいるし、ネアさんの発言を聞きとがめたのかむっとしてる娘もいるし、慌てて食堂外へ出ていく娘までいる。先生を呼ばれたかもしれない。
「ほら、すでに騒ぎになっている。このままだと共倒れだと思うがな?先生が来るぞ?」
睨みつける景さんや海里ちゃんとネアさんの間でマギーさんやみっちゃんが必死に止めている。
僕も何か言わないといけない。
「僕は、男だからとか、軟弱だったとか、そういうことを言われるのは、どうしてもあると思う…」
僕の発言に注目が集まっているように見える。冷や汗が滴ってくる…でも、ここは考えれば考えるほど緊張すると思う。一気にしゃべってしまうことにした。
「でも、僕は、女子も、男子も、住みよい凉星を、作っていきたい」
みんなで考えた、選挙のスローガン。ここでぴったりの言葉と思った。
「それは、生徒会本部役員選挙への立候補表明と受け止めていいのですか?」
いつの間にか、傍らに麻由ちゃんが来ていた。麻由ちゃんは新聞委員。ということは、これは学校新聞に載るインタビューになってしまうのか??
「うん、そのつもり」
「ありがとうございます、酒本候補」
麻由ちゃん、喋り方が本物のマスコミそのものだ。
「…」
子愛さんの表情は硬い。しかしさっきまでの睨みつけるような風ではない。
「充代、マギー、いくぞ」
「迷惑かけてごめんね」
「シーユーアゲン、たっくん♪」
…嵐が去った、ような気がした。
「行き過ぎた真似をしたかもしれない。でも、奴は間違いなく要注意人物」
「景さん…」
「たっくん、今、来てもらっている」
「えっ??」
ここまで多分少し離れたところにいたはずの綾ちゃんの声。
考える間もなく、僕の前に学年章からして二年生の先輩が現れた。
男子のちょっと長髪の感じの無造作の頭に、大きな瞳。
「2年3組 凉星高校 選挙管理委員会 委員長 古代 行(いく)!」
その風貌は、もし隣に金髪長髪の女性がいたら、往年のアニメ主題歌が頭の中で流れそうな様子だった。
古代先輩は紙のフォームを差し出した。
「生徒会本部役員選挙への立候補を表明したと聞いた。このフォームに、推薦人一名以上のサインと共に記述すれば、立候補は正式に受理される。その場合、凉星高校 生徒会本部役員選挙規則に基づき、二週間後の10月8日が、投票日となる」