君の人生、変えてあげる。 325
“2年5組 小山内 祐紀(おさない ゆうき)”
黒田先輩は丁寧にも読みまで紙に書いた。
「まだ決定じゃないからあんまり言わないで。立候補予定者の打ち合わせまでには決めたいと思う」
「ありがとうございます」
そして、まずは打ち合わせの日程を整合できるよう、チャットアプリで立候補予定者のグループを作ろう、と決まって、秘密の話は終わった。
2年1組に戻って、先輩方と一旦離れて僕と歩ちゃんは菊川先輩のところに行った。
「あの…」
「たっくんにお願い、っていうのは…」
菊川先輩は小声になった。
「今書いている作品で、トイレの中でのHを書こうとしてるんだけどなかなかイメージできなくて、協力してくれない?すぐじゃなくていいから。君のクラスの前のトイレ、男女共用になったんでしょ」
「は、はあ…」
「だからさ、お願い!」
目の前で両手を合わせてお願いする菊川先輩。
いくら共用が認められたとはいえいきなりそれって…
「理紗の無茶振り、無理して応える必要ないぜ」
「ちょっ、美和子…」
高森先輩は菊川先輩に近づき、ニャッと笑った。
そして小声で言った。
「何がやりたいのぉ、理紗。個室に二人で入って、どんな距離感なのか、とか、そういうことくらいなら、私協力してもいいよぉ」
「あ、うん、ええと、そんな感じかなあ…うん、美和子」
そして菊川先輩は僕の方を向いて言った。
「ごめん、たっくん、無理言って」
「あ…いえ、どうも…」
選挙の話も終わったのでそこで教室を出た。
菊川先輩の要求を回避したことにホッとしつつも、心の何処かで何をするのか気になってしまった自分と、申し訳ない気持ちとで交錯してしまった。
「小山内先輩か…男の人みたいな名前だな」
「そうだね」
ちょっと、2年5組の前を通ってみたい気もしたが、その方面は僕にとって完全に未知の領域だ。歩ちゃんも戻る方向に歩き始めたので僕も続いた。
食堂で食事する十分な時間は無さそうだったので、僕と歩ちゃんは売店でパンを買った。そして教室の近くに来た。
「トイレ行く?」
「え。あ、うん」
この共用トイレ、行くときは行くのだが、ちょっとまだ慣れない。
「『個室に二人で入って距離感を』って、やってみる?
」
歩ちゃんはにやっと笑って、小声で言った。
「え、ええっ!」
まわりの何人かが僕の声にちょっとびっくりして僕の方を見る。
「冗談よ」
歩ちゃんは改めてにやっと笑った。
「でも、やるなら、もっと誰もいないときだろうなあ」
歩ちゃんは、もう一度小声でそう付け加えた。