君の人生、変えてあげる。 322
僕たちは、液をティッシュで拭いたりすることもなくしばらくの間抱きしめあった。
窓の外では、もう日が傾きつつあった。
僕たちは、時々キスをしながらゆったりと時間を過ごした。
「ほんとに、今日は来てくれて、ありがとう」
「ううん、こちらこそ、香里ちゃんと仲良くなれてよかったよ」
「…来てもらえたの、アスのアドバイスのおかげなんだよ」
「えっ?」
「香里の今の気持ち、たっくんに思いきりぶつけてきなよ」
「ってね」
「飛鳥ちゃん…」
「だから、気持ち、思いっきりぶつけてみた。たっくんに伝わったかな」
「十分。その答えが、香里ちゃんとの2回分」
「ふふふっ」
お互いに笑った。
家に帰った時には、日がほとんど沈んでいた。
母さんは「遅かったね」と言ったがそれ以上深く突っ込まれるようなことはなかった。
夕食後、部屋に戻るとスマホに香里ちゃんからの“今日は来てくれてありがとう。仲良くなれてよかった”という内容のメッセージが届いていた。
それでも
“これから、生徒会本部とか行くともっとたっくんが遠くなっちゃうのかなあ”
のような言葉もあった。
それに対しては
「そんなことないよ」
という内容を返した。
その後、突然、綾ちゃんからのメッセージが届いた。
ID交換して、こちらが試しに“こんにちは”と打ってから一度もやり取りはなかった。
ちょっとびっくりして開いてみる。
“生徒会役員選挙、そろそろ動きあるかも。
心の準備しておいたほうがいいかも”
他の子が顔文字やスタンプなど可愛くて多彩な表現をしてくるのだけど、綾ちゃんは至って普通というか、作業的というか。文章だけのシンプルなもの。でもそれが綾ちゃんらしいといえばらしい。
そして翌日。
教室に入るとすぐ綾ちゃんに手招きされる。
「昨日送った話。ちょっと情報を仕入れたから、2人になれる場所で」
そうして、教室を出てあまり人が来ないと綾ちゃんが言う廊下。
「昨日の話だけど」
「うん…生徒会選挙のことで。まったくのノーマークだったけど、たっくんに興味があるって言う二年生の方がいるって」
「へぇ…」
2年1組、榊原小春先輩。
僕については景さんを通じて知ったらしい。
「興味ある、ってどういうことなんだろう?興味だから、同じ立場になれるかどうか、ってこと?いや、やはり対立陣営、っていうことで会いたいのかなあ、それとも、第三勢力とか…」
「それ以上のことはよく分からない。分かるのは、家庭科研究会の人だということ」
その会は初めて聞いた。部、ではないということは、人数が少ないとか活動日数が少ないとか…
「その家庭科研究会ってどこで活動しているの?」