君の人生、変えてあげる。 319
「まあ、それじゃあ仕方ないかもね」
背中をこするタオルの感覚は程よく気持ちいい。
「もしお風呂が広かったら今でも一緒に入る?」
「うん、お父さん大好きだから。でも仕事も忙しいからなぁ」
しばらくしたところでシャワーのお湯をかけられた。
ちょうどいい暖かさだ。
それから僕は自分で軽く前の方を洗った。
浴室に来たときから入れはじめていた湯舟のお湯は、ちょうどよい量になっていて蛇口は自動的に閉まっていた。
「香里ちゃん、背中流そうか?」
「ううん、自分で洗うよ。たっくんはお風呂入ってて」
シャワーで前の方の石鹸を流して湯舟に浸かる。ここもちょうどよい温かさ。
「たっくんは兄弟とかいる?」
「うちは一人っ子。香里ちゃんもそうだよね」
「うん。昔は羨ましいなって思っていたの。今は一人の方が楽でいいけど」
「クラスで兄弟の多い子いるの?」
「凛ちゃんとか、あと海里ちゃんとか。3人とか4人姉妹って聞いたな」
「姉妹、ってことは女の子だけ、ってこと?」
「そう」
僕は卒業した海里ちゃんのお姉さんがモデル、と聞いたことを思い出した。きっと、お姉さんも妹さんもそんなような美しい人なんだろうなあ、と漠然と思った。
「凉星にいる人もいるの?」
「うん、全員じゃないけどいる」
「そうなんだ」
やがて香里ちゃんはシャワーを浴びた。
僕は香里ちゃんが湯舟に入れるよう、端に詰めて場所を空けた。くっつけば、何とか入れそうなスペースだった。
「あ、たっくん、ありがとう。でも、ここで一緒に入ると…またやりたくなっちゃいそうで…」
「あ…まあ、そうだね」
それでも、2人で入ると狭くなる湯船の中、肩を寄せ合う。
「たっくんって、お母さんと一緒にお風呂ってなかった?」
「なかったなぁ…もう小学生になったときくらいから一人で入ってた」
父さんは仕事が忙しい人だったから家での印象は正直言って薄い。
それでいてたまにいるときは僕に厳しいので苦手だった。