君の人生、変えてあげる。 308
飛鳥ちゃんは裸のままタオルを頭から被った状態で扇風機の前にいた。
「たっくんの前だと恥ずかしくなくなっちゃったね」
「僕はありのままの飛鳥ちゃんが見れていいと思うかな」
「ふふっ」
バスタオルを外しドライヤーのスイッチを入れる飛鳥ちゃん。
その長い黒髪は艶めいていてとても綺麗だ。
僕も特に何も隠すことなく、バスタオルのあるところへ歩いていく。
「前は…この傷とか、あまり見せたくなかったけど、今は全然大丈夫と思ってる」
「うん、誰も変に思う人はいないよ」
飛鳥ちゃんの近くでバスタオルを手に取る。
徐々にではあるがその傷跡は薄れつつある。
ただ、それが僕の記憶から消えるわけはない。
そこで思い出す。
皐ちゃんとか、何人もの人が僕に言ったこと。
「記憶の上書き」
僕もそれをしてるのだろう。今初めて感じた。
僕はそう考えながらバスタオルをただ持ったままぼんやりと風呂場の向こうの海を見ていた。
「どうしたの?」
飛鳥ちゃんが、僕のすぐ後ろ、温もりが伝わってくるような距離に立った。
「…何でもないよ」
僕はそれ以上話が進まないよう時計を見て言った。
「そろそろ着がえよう」
そう言って僕は急いでバスタオルで体を拭いた。
身体を拭き終え服を着た後、ロビーの自販機でコーヒー牛乳を買って飲む。
さすがに昔のドラマとか漫画にあった瓶ではないけど、甘くて美味しい。
「そろそろ帰る?」
「そうだね」
外に出ると空がオレンジ色に変わりかけていた。