君の人生、変えてあげる。 300
飛鳥ちゃんの提案で、電車に乗って海を目指すことにした。
「たっくんは海水浴とかしたことある?」
「あんまり。父さんは仕事ばかりで忙しかったし、家族で旅行とかなかった気がする」
「私もなんだ。だから叔父さんにいろんな場所に連れてもらってた」
秀雄さんか。
あの人はいろいろ自由な印象があるし飛鳥ちゃんは気に入ってたのだろうか。
30分くらいで、電車は住宅街から海を見渡す場所まで来た。
そして僕達は、今乗っている快速から、ぐっと空いた各駅停車に乗り換え、数駅乗った。
「次が海に近いんだ」
飛鳥ちゃんは言って、降りる準備を始めた。存在は知っていたが降りたことのない駅だった。僕もあわてて準備した。
僕達は駅を降りた。
「海水浴の時期は、ちょっと賑わうんだけどね」
「飛鳥ちゃんは来たことあるの?」
「うん」
降りたのはホームと駅舎だけの無人駅。
僕ら以外に降りた客はいなかった。
「最近は車で来る人が増えたからね」
「飛鳥ちゃんは?」
「叔父さんは鉄道マニアでもあるから、両方で」
飛鳥ちゃんは笑って言う。
今の彼女を作ったのはご両親よりも秀雄さんなのかもしれない。
海水浴シーズンは終わったので砂浜はほぼ無人。
波に近いところにサーフィンを楽しんでいる人が数人いるくらいだ。
あれ?ここって…前にどこかで見たような…
少し先の丘。この海岸を緩やかに見下ろす景色のよさそうな空気のよさそうな丘。
そこには学校かな?小奇麗な建物があって。
僕の中に芽生えた、不思議な予感。ふと気になってスマホのマップで調べてみた。
「あの学校って…これじゃないかな?」
「どれ…?」
飛鳥ちゃんと二人でスマホのマップアプリとこのあたりの風景とを見比べていると、飛鳥ちゃんが突然自分のスマホを出して、手早くブラウザアプリを開いてあるページを示してくれた。
可愛い中にも颯爽とした感じがして僕の胸もときめいて。
「ここじゃないの?あの小説の学校」
「彼も…ここで頑張っているのかな」
「地理的にはしっくりくるよね。あの学校、本当にあるのかもね」
あるネット小説に出てきた、家庭の事情や校内虐待(いじめ)で不登校になった少年少女が通う、特別な学校。
僕も、母さんが今の高校を紹介してくれなかったらもしかしたらここに来ていたのかもしれない。
そうしたら彼とも友達になれたのだろうか。 彼とは結構趣味も合いそうな気がするんだ。