君の人生、変えてあげる。 297
「そうなんですか」
「梨奈が聞いたのはどんな声だった?」
「えっと、その…」
梨奈ちゃんは顔を少し赤くしてやや下を向いた。
「答えにくいかな?その声は、その2人が、生前、実現できなかったことを追体験しようとしている…幽霊なのかも知れない、っていう説なんだ」
「生前実現できなかったこと…」
「追体験?」
「そう、2人はどんな声を聞いた?…まあ、大っぴらには言えないかもしれないけど」
三浦先輩がそう言うと、梨奈ちゃんが顔を赤くして俯いた。
「まあその…彼女の声と共鳴するような感じで…」
「だよね」
「そっか…うん。他に声を聞いた人の話だと、例えば、何人かで話していると、その話し声に共鳴するように聞こえたり、とか…その先輩のいた当時の雰囲気って、練習、練習、で結構息苦しい感じだったらしい。もちろん彼氏とか作るなんて状況でもなかった。あの方々は、そういう楽しそうな所に、出てくるのかもしれない、っていう話なんだ」
「そういうことですか…」
「きっと2人のしていることが羨ましかった、んだと思う。酒本くんももし次に…そういう機会があったら考えてみるといいかも」
「いや、ありますかねぇ」
まだ作業中らしい三浦先輩に挨拶して、更衣室に向かう。
「着替えたら帰りに寄ってみようか」
「そうだね」
僕たちは制服に戻って、プールの裏のその慰霊碑に言った。
古びていたが、今も花が供えられていて、常に誰かが気を配っているようだった。
文字を読むと、事故があったのは、母さんが在学した頃よりは少し後のようだった。
僕と梨奈ちゃんは、どちらが言うでもなく手を合わせた。
“ありがとう”
声が聞こえたような気がした。シャワー室で聞いた声。