君の人生、変えてあげる。 296
パソコンの画面から目を離し不思議そうにこちらを見る三浦先輩。
「いや、あの…」
「梨奈にとっては、むしろいいことだったんでしょ?」
その表情はいたずらっぽい笑顔に変わる。
「そ、そういう…う、ううん…」
梨奈ちゃんはなんか言葉に困っている。
「梨奈がそんな顔するなんて初めて見たなぁ。酒本くんも、良かったわけでしょ」
「ま、まあ…」
「隠れなくてもいいよ」
「いえ、でも、あの…はい」
僕は、三浦先輩の前に出られるように、シャワーから出るときに体を拭いたタオルで前を隠して進み出た。
梨奈ちゃんはちょっと落ち着いて、そのまま部室に入った。
「ところで、あの声は聞いた?」
三浦先輩はまた真面目な顔をして僕らに尋ねる。
「はい…」
「たまに、聞こえますよね。本当になんでしょう」
「ここは『出る』って噂は知ってる?」
「さっきそんな話を聞きましたけど…」
「そう…噂はいろいろあるんだけど…酒本くんは黒田勝代…って知ってるよね?」
「はい」
「勝代が教えてくれたひとつの説なんだ」
三浦先輩は、より改まった表情になり、遠くを見るような目で語りはじめた。
「昔、星ヶ丘女子時代に、かなり速い選手の姉妹がいたんだ。インターハイには行ってて、もしかしたら将来はオリンピックかも、と思われていた…その姉妹が、練習の帰り、校門の前の信号を渡っていたときに信号無視の車が…」
梨奈ちゃんが無言で目を被った。
「…ここまでは説ではなくて事実。梨奈も知っているでしょう」
「はい。何度聞いても悲しいですよね」
そんな話があったのか。どれくらい昔のことなのだろう。
もしかしたら母さんが知っていたりするのかな。
「プールの裏の方に慰霊碑があるんだ。酒本くんも時間があるときに行ってみるといいかも」
「はい…是非」
三浦先輩は話を続けていく。
「それから数年後くらい…このプールの更衣室やシャワー室で、不思議な声や物音を聞く人が多数現れるようになった」