君の人生、変えてあげる。 287
「そうなんだ。藤井さんみたいな人が一緒にいたら、僕も定期的にここに泳ぎに行きやすくなるよ」
「うちの運動部はどこもそんな感じだよ。トップ選手もいれば私たちみたいな人もいる」
向こう側のレーンを見渡す。
北島先輩や入江さん、荻野さんといった面々は非常に速いペースで泳いでいた。
僕はふと、さっきの藤井さんの説明で“中学からこの部に入りたくて来る人もいる”的な話を思い出した。
あの中には中等科の子がいるのだろうか?
「藤井さん、この部に入りたくて中等科から入る人って、もうこの部の練習に参加しているの?」
「うん」
藤井さんはちょっとそのレーンの方向を見た。
「今日も来てるよ」
確かに、そう言われてみると、ちょっと小柄な感じの子がいるような気がした。
僕も半年前は中学生だったわけだが…今“中学生”と思うと、ちょっと複雑だ…このあと、裸を見せ合うようなこと、中学生と…いいのだろうか?
「ねえ、あの、藤井さん…このあとの自主練第二部って…そのう…中等科の人も参加しているの」
「うん」
藤井さんはそう答えたあと、僕の表情を不思議そうに見つめた。
「あ、もしかして、中学生の裸を見たらまずいのでは、
とか思ってる?」
「…うん、そんな感じ」
「それは基本的に本人が判断することだけど…」
藤井さんは少し考えて続けた。
「私達高等科の生徒は『ほとんど大人』って認められているのは知ってるよね」
「うん」
「だから、例えば酒本君と一緒にお風呂入ろう、と言っても誰も止めたりしない。で、中等科は『ほとんど大人』になる準備段階と位置づけられている。だからいろいろ判断できるように、大人が見守る中でいろいろ経験する、っていうのが基本。だから、本人がそうするんだ、って思って、私達『ほとんど大人』の高等科のメンバーが見守るなら、本人がそうするんだ、って思うなら、何の問題もないよ」
「そ、そっか…」
まだ考えたいこと言いたいことはあったけど、藤井さんの説明を聞いてなんとなく納得はできた。
「今までにも今日みたいなことってしたの?」
「そう多くはないけどね」
果たして男の僕が加わってそれがどうなるか、ちょっと不安はあった。
「中等部の子ってもう来てる?」
「向こうのレーンにいるんじゃないかなぁ」
僕は藤井さんが示す方向を見た。多分あの子かな、とさっき思ったちょっと小柄な子が、やはりそうのようだ。
やはり結構速いペースでクロールで泳いでいる。
「じゃあ、私、また泳いでくる」
「あ、僕も」
そしてまた何往復か、休み休みだが泳いだ。
周りの雰囲気が少し変わった。
顔を上げてみると、笛の音が聞こえた。
「休憩〜」
笛のあと、三浦先輩が大声で言う。みな、一斉にプールから出た。