君の人生、変えてあげる。 286
そして岩崎先生について僕も部室に戻ると確かにみんないた。
みんな先生に「ありがとうございました」と言って、岩崎先生はタオルを肩から掛けて部室から外に出ていった。
僕が何か言う前に三浦先輩が言った。
「今日は岩崎先生、ちょっと用事があるらしいからあとは自主練、っていう形にすることにしてる。岩崎先生の指導を希望するならまた別の機会に来てね。よかったらもう少し自主練で泳いでいく?」
「はい」
「それから…自主練の第二部、っていうかちょっと息抜き的に、っていうか…希望者だけ参加する活動がそのあとあって…よかったら、酒本君にも……」
三浦先輩、ちょっと顔を赤くして、言いづらそうにしている。
「水着を脱いで、みんなで裸でプールに入るんだ。水泳部の特権だよ」
口ごもった三浦先輩に代わり、梨奈ちゃんが横から説明した。
「それっていいの?」
ちょっと考えられないことに驚く。
「練習の後の気分転換だよ。こういうのって、共学の学校じゃできないことでしょ」
「まあ、そうだろうけど…」
「その時のお楽しみだね」
入江さんが僕の背中を軽く叩いて、プールに向かう。
自主練はさっきと同じところで泳ぐ。さっきより長い時間、誰も水からでない。僕は何回かプールの底に足をつけながら何とか泳ぎ続けたが、さすがに疲れてきて、休憩した。
他の人はまだ泳いでいる中、1人の女子…同じレーンで泳いでいた子の1人…がプールサイドに座っていた。
僕はその子の隣に座った。
「初めまして」
「実は会ってるんだよ。宿泊研修二日目のお風呂で…私は一年四組の藤井璃花子」
僕は感づかれないように記憶をたどったが、覚えがない。
「うん、わからなくてもしょうがない。何人もいたんだから」
藤井さんはそうフォローしてくれる。
確かに大浴場の中の一人では、一人一人の顔まで覚えていられない。
「藤井さんも水泳部?」
「うん、でもなかなか速くは泳げないね」
「さっき聞いたけど、全国大会で実績のある方もいるって」
「そう。顧問の景子先生がね、学生の頃にオリンピックに出たこともあるんだよ」
「そうなんだ…」
確かに、岩崎という水泳選手の名前を聞いたことがあるような気はした。
「そんな有名な方が、うちの先生なんだ…」
「うん、だから、速い人が集まる。この水泳部に入りたくて高校から…中には中学から、来る人もいる…私はちがうよ。私とかみたいな、普通の人でもいられるのがここの、というかこの高校の運動部のいいところだと思う」