君の人生、変えてあげる。 282
その夜も結構早く寝た。
翌朝、土曜だが授業がある日だった。
午前中だけなので、教室内はいつもよりリラックスした空気が流れていた。
「おはよう、たっくん」
「おはよう、飛鳥ちゃん」
「ねぇ、たっくん…」
飛鳥ちゃんは一息ついて言った。
「今まで…遠いトイレ、行ってもらっていたけど…今日から、そこのトイレ、たっくんも使えるようになったよ」
「えっ?そうなの?」
「うん、学校で協議した結果、たっくんにもっと理解を得られるよう力を尽くすってね。これからたっくんに対する制約がなくなるかもしれない」
確かに今まで不便に感じたけど、それに文句が言える立場じゃなかったから、素直に嬉しいことだと思った。
「この話は、葵ちゃんが結構2組の雰囲気を作ってくれて実現したんだって」
後ろから胡桃ちゃんが補足する。
「どういうこと?」
「ここのトイレが最寄りなのは1組と2組でしょ。だから2組がOKすることが絶対必要だったの。それで、葵ちゃんが結構多くの人を説得してくれたみたい」
「そうなんだ」
「付け加えると、藤澤さんたち何人かは『じゃあ私たちは4組前のトイレ使うからいいよ』っていう形で、同意してくれて、2組全体としてOKになった」
飛鳥ちゃんがそのように付け加える。
「うーん…それって藤澤さんたちからまだあまり理解を得られていない、って思う気も…」
「そう後ろ向きに考えなくていいんじゃないかな」
そうかな。果たしてそうなのだろうか。
「普通なら、反対する人がいたらたっくんがここにいること自体危機に晒されるかもしれない。2組の人のたっくんへの思いはまだはっきりとはわからないけど前向きにはとらえてくれてると思う」
この前藤澤さんたちと話したときは…確かに、僕を受け入れてくれてる風だったな。
「普通の共学校には男子トイレも女子トイレも多分同じようにあるんでしょう」
「うん」
「藤澤さんたちは、そういう普通の共学校ならいい、っていうメッセージを出してくれているのかも。こないだの美術のついたての話もそうだけど」