君の人生、変えてあげる。 281
しばらくお互いに意識がなかったのか…僕は景さんにずっと覆い被さっていた。
「景さん…」
「ありがと…幸せな時間だった」
景さんは軽く微笑んだ。
「初めて、男の人の温かさを感じた。拓真くんは、私の恩人」
「ありがとうございます…」
「また、してくれる?」
「もちろん…景さんが望むなら」
「私は寮生なんだ…親の家に居づらいから」
「そうですよね」
「うちの寮は長く男子禁制だった。これは、学園の規則じゃなくて、昔の先輩が決めた寮則」
景さん、だんだん以前会ったときの口調に戻りつつある。
「彼氏とか連れ込みたい人は常にいただろうけど多数派になることはなかった。でも、ここにきて、君のクラスメートたちの動きで、限定的に男子が入れるように寮則を改正する合意ができつつある…だから、君が良ければ、私の部屋に訪れてもらうこともできるように、なりそうだ」
景さんは話を続ける。
「これから生徒会選挙を戦っていくために、いろいろ作戦を立てていくことも必要。そのために私の部屋を使っても大丈夫」
「いいんですか?」
「私がいい、と言ったら大丈夫。拓真くんの実力は知っている。それに、私が、君のこと、好きだから。私は君と一緒に生徒会の仕事をしたいし、男としても…」
最後は何か言葉を濁したけど、景さんは笑顔で言う。
「ありがとうございます。その時にはぜひ」
「なんなら、一緒に住んでもらうことも、できるようになる。でも、君のクラスメート達が許さないだろうな」
そういって景さんはちょっと笑った。多分冗談なんだろう、と思って僕も笑った。
窓の西日が、時間の経過を表していた。僕たちは服を着始めた。
「じゃあ、また」
「今後ともよろしくお願いします」
「堅苦しい。もっと笑って」
景さんが僕の肩をポンポンと叩く。
彼女の自然な笑顔が見れたような気がした。
寮の入り口まで景さんと一緒に歩き、別れた。
長い1日だったけど、不思議と疲れはまったくなくてスッキリした気分だった。