君の人生、変えてあげる。 275
「ありがとう。また君と話がしたかったんだ」
「僕もです」
資料室の奥にあるデスクに向かい合って座る。
小さな窓から日の光が差し込んで、明るくなる。
「選挙に向けては順調?」
「はい。ちょうど今日の昼に、今後に不安のある子たちと食事しながら話をして、誤解が解けたかな、と思いました」
「それならよかった」
相変わらず淡々と喋る人だ。
見た目とのギャップを感じるけど、それもまた魅力なんだろうか。
「酒本くんには期待してるんだ…君が生徒会の役員になることで、何かが変わるきっかけにならないか。私も君と一緒に仕事ができるのを楽しみにしてる」
「はい」
…先日の話と似たような、もしくは続きだと思っていた。
「君は他校を一度退学して、二学期からやってきたと聞いた」
「ええ、そうです」
「そのパターンはこの学校では二例目になる」
「そうなんですか?じゃあ、初めてそこに…」
「私だ」
「えっ?」
一瞬その言葉の意味が分からなかった。
「景さんが、その、他の学校を一度辞めて、涼星に?」
「そう」
「それは…」
景さんは神妙な顔をして、僕に話す。
「君がここにやってくると聞いて、最初は不安に感じた。私は前の学校で散々な目にあった。共学だから男とも一緒だ」
「それが…」
「後になって君が、いじめという傷を負っていたと聞いた。それは私も一緒…」
景さんが自分の過去を精一杯話してくれる。正直、衝撃がすごかった。
自分と同じような境遇で…
「何度訴えても誰も味方してくれない。家族にすら見捨てられた。そして…無理やり、犯された。私は、私は…」
景さんの声が、明らかに震えていた。
そして景さんは、そっとブラウスのボタンを外した。
それだけで、もう言葉以上のメッセージは伝わってきた。
「そのとき、相手は刃物で脅した…私もできる限りは抵抗した。相手は刺してきたわけじゃない…でも、刃物が体に当たるのは避けられなかった」
景さんが僕に腕から肩にかけて、見せてくれる。
刃物によってできた鋭利な傷跡がはっきりとわかる。
「あの出来事で私は数え切れない何かを失った。だからこんな風になってしまった。人を信じることも、頼ることも何もかもすべて…」
僕は何も言わない。景さんの感情を、できる限り受け止める。
「男が憎い、この世からいなくなってしまえばいいとすら思った。そんな中君の存在を知った。すべて失った私に追い討ちをかけるとさえ感じた。でも…」
景さんは涙を流していた。
「君となら、変われるかもしれない…こんな弱々しい私でも、君の力になれたら…」
うつむき涙をこぼす景さんを、そっと抱き締めた。