君の人生、変えてあげる。 28
邪念を捨てていざ描こうにも、目の前の陽菜子ちゃん以外にも裸になってる女の子はあちこちにいて、とても集中力を維持できる環境には程遠い。
デッサンする鉛筆を握る手が震える。
「たっくん、緊張してる?」
隣で描いている皐ちゃんが聞いてきた。
「まあ、ね」
「誰だって最初はそうだよね」
「たっくんはモデルの番のとき、どうする?脱ぐ?」
皐ちゃんは続けて聞いた。
「うーん、制服のままがいいかな。傷あるから、芸術的じゃないよ」
「私は、脱ごうかと思ってるんだ」
皐ちゃんは、確か、体育の着替えの時は隠している方だった。
皐ちゃんはいったん鉛筆を置いて、Yシャツの下の方のボタンをはずして、ちょっとめくって見せた。
いくつもの、点々とした、やけどの跡…
「小さいころ、父だった男に、たばこでやられた。今はいないけど…なるべく隠していたんだけど、たっくんの傷を見て、これも含めてありのままの自分なんだ、って受け入れようと思えたよ…傷を隠して生きるより、それを認めて進んでいくことが、きっとあの男を、乗り越えることなのかもしれない、って」
皐ちゃんは、小声でそんなふうに話してくれた。
「うん、素晴らしいことだと思う」
「ありがとう!」
皐ちゃんはニコリと笑い、再び視線をキャンバスに移した。
…苦労して生きてきたのは、決して僕だけじゃないもんな。
自分の過去の傷に対して、前向きに生きよう…僕も皐ちゃんを見習い、そうしていこうと心に誓ってみた。
それ以後は、不思議と緊張せず、スラスラと筆が進んでいった。
そうこうしているうちに美術の時間は終わり、絵は来週に続くことになる。
四時間目は英語…いきなり金髪碧眼の背の高い先生が現れた。
そして授業は、ゆっくりだが、英語で進んでいく。これはちょっと苦しいな。
英語は苦手なつもりではなかったが、これはちょっと努力が必要そうだ。
昼休み、いつものように食堂で食べるメンバーと昼食を食べた後、飛鳥ちゃんが言った。
「たっくん、屋上って行った?」
「えっ?まだ行ったことない」
屋上に入れるのかさえ分からない。
飛鳥ちゃんは鍵を示した。
「鍵借りたんだ。良かったら、案内するよ」
「ありがとう」
「アスちゃん、委員長職権?」「いいなぁ」
そんな声を背に僕と飛鳥ちゃんは階段に向かった。
「この鍵は、理由がないと借りられないの」
「そうなんだ…」
僕には、飛鳥ちゃんがどんな理由を届け出て鍵を借りたのか分からなかった。
まさか「転校生を案内するため」ではないだろう。
まあ、眺めのいいところは好きだから、屋上は行きたい。今日も快晴連続何日か、が続いていて視界もいいだろう。
「英語の授業、どうだった?」
飛鳥ちゃんが聞いた。
「外人の英語、直接聞くのはの初めてで、ちょっと難しかったよ」
「そうよね。向こうは子供のころから英語に慣れているけどこっちは途中からだもん。誰でも難しい…なおちゃん、浜野 奈緒ちゃんが帰国子女だから、相談するといいよ」
そうこうしているうちに、屋上へのドアに着いた。飛鳥ちゃんはその重々しいドアを開いた。
明るい!そして、広い!
次の瞬間に、360度の眺めが眼前に広がった。