君の人生、変えてあげる。 230
そして沙奈恵ちゃんは、きつく目を閉じて、僕に唇を押し付けた。
唇をつけていた時間は、実際には一分未満だったのだが、かなり長く感じた。
「たっくん…」
沙奈恵ちゃんの瞳はうるんでいた。
僕は、その表情を見て、ここから先に行っていいのか、本格的に判断に迷った。
「沙奈恵ちゃん、気持ち、とってもうれしい、僕も、沙奈恵ちゃんのこと、もっと知って行こうと思う…」
「ありがとう…」
「同じ、一年生なんだ。僕も沙奈恵ちゃんも、あと二年半、この学園にいる。もっと近づけることも、あると思う」
後ろから、拍手が聞こえた。
僕は、振り返った。
「歩ちゃん!」
「たっくん、かっこいいよ」
振り向くと、歩ちゃんたち文芸部のメンバーが露天エリアにやってきていた。
陽菜子ちゃん、伊織ちゃん、皐ちゃん…いつもの面々だ。
「みんな…」
「さっきのたっくん、ホントにカッコよかった!」
「なんかドラマ見てるみたいだったね」
…みんなに見られていたとなると、ちょっと恥ずかしい気持ちがした。
沙奈恵ちゃんはもっと恥ずかしかっただろう。
そそくさとその場から去ってしまった。
文芸部の子たちの中に一人、初めて見る子がいた。
“私たちも他のクラスにいる文芸部の子を紹介しようと思っててね”という歩ちゃんの言葉を思い出した。
背が低めで、ショートカットの子。
「この子、4組の、永木紗枝」
「あたし、菊川先輩っぽい路線書いてるんだ」
僕が、その永木さんの方を見ると、その目は、僕の下半身に注がれているようだった。
「そういうの書いてて、実は、実物…初めて見ちゃった」
こういう場所だからか、僕のそれを目にしたせいなのか、彼女の頬が次第に赤く染まっていく。
「えっと…紗枝ちゃん、でいいのかな」
「うん、たっくんって呼ばれてるんだよね」
お互いに確認するように言う。
「じゃあ、2人とももっと近づいてさ」
歩ちゃんが紗枝ちゃんの背中を押す。
紗枝ちゃんは、もう手を動かせば触れてしまうくらいに近くに来た。
「たっくん」
紗枝ちゃんは、僕を見上げて、目をぎゅっと閉じ、唇を突き出したような格好をした。
「これって…」
いきなりで戸惑った。キスしてほしい、っていうこと?さっき会ったばかりなのだけど…
「思った通りで大丈夫。紗枝、多分頭の中で何かストーリーを思い浮かべてる」
紗枝ちゃんのうしろから歩ちゃんが補足する。