君の人生、変えてあげる。 228
「…せめて、キスだけでも」
沙奈恵ちゃんは、多分、さっきの自分に言い聞かす言葉の続きとして、そう言った。そして、目を閉じて、僕の顔に近づいた。
「たっくん…」
沙奈恵ちゃんの唇が僕の唇に触れた。
僕は沙奈恵ちゃんの身体を抱き寄せ、深いキスを試みる。
沙奈恵ちゃんは驚いて目を見開いたが、次の瞬間には僕を受け入れ、背中に手を回してきた。
「たっくん…」
「沙奈恵ちゃん…いい?」
唇が離れ、彼女の顔を覗き込む。
スッと一筋の涙が流れるのが見えた。
「うん…でも…ここじゃ、いや」
「えっ?」
「さっきの、場所にいきたい」
そう、確かに、ここは夕食前の岩陰ではなく、視線を感じるところだ。
それでも、何人かにみられながら岩陰に行っても、あまり変わらないような気はするが…
「行ってあげなよ、たっくん」
「里枝ちゃん…」
「沙奈恵がそれでたっくんとできるなら、そうした方がいい」
「沙羅ちゃんも…」
2人は僕らの背中を押してくれているのだろう。
少し躊躇いがあった僕の心まで知っていたみたいだ。
そして、僕と沙奈恵ちゃんは、手をつないで、岩陰に向かった。
周りの視線がどうなったのかは、ここでは全く感じなかった。
岩陰で、沙奈恵ちゃんは黙って、気を付け、のような姿勢で横たわった。
「痛くない?」
「ここは、割と平らだよ。大丈夫」