君の人生、変えてあげる。 219
「ありがとう、お願いするよ」
僕は、椅子に座り、自らは前の方をお湯で洗い始める。
「熱くない?」
「大丈夫」
純菜ちゃんは風呂桶からお湯を僕の背中にかけ、その後タオルでこすり始めた。
「痛くない?」
「うん、気持ちいいよ…」
純菜ちゃんは僕の背中を一通りこすった後、耳元で
「ねぇ、もっと近づいても、いい?」
と言った。
僕が返事をしないうちに、背中に別の感覚を覚えた。
鏡を見ると、純菜ちゃんは僕の背中に胸を密着させたようだった。
「たっくん、この子、4組で、テニス部の、松田 沙奈恵」
空気を読まないのか、あるいは敢えてなのか、沙羅ちゃんが、さっきの僕のまだよく知らない人と一緒に近づいてきた。
純菜ちゃんに肌を密着され、少し恥ずかしい感じがしながらも僕はその沙奈恵ちゃんの方に顔を向ける。
ショートカットで可愛らしい子だ。
沙奈恵ちゃんも、少し緊張しているのか、ほんのり顔を赤くさせていた。
「ええと…よろしく」
沙羅ちゃんは隣のイスに座る。
純菜ちゃんは、この状況に、密着させた胸を離し、もう一度タオルを手にとって、沙羅ちゃんと反対側の、僕の腕とかをこすり始めた。
「ええと、酒本君」
沙奈恵ちゃんは、こちらから見ると沙羅ちゃんの向こうに、やや下を手で隠し気味にして…まあ、これが普通の反応だろうが…立って、言った。
「たっくん、でいいよ。沙奈恵ちゃん、でいいのかな?」
「うん、ありがとう」
沙奈恵ちゃんは、ますますはずかしそうにうつむいた。
「たっくんは、テニスとか、やったことある?」
「やったことないなぁ…あまり運動そのものが得意じゃないというか…」
もう少し言葉を選ぼうとも思ったが、やっぱり本音が出てしまう。
「でも、最近人気が出てきたというか、日本人でも強い選手がいるよね」
「そう!楽しみだよね」
自分がやるのよりも、見るほうが好きだ…その選手のことは最近ニュースで取り上げられることも多いし、気にはなっていた。
「たっくんも興味があったら見学いつでも…って、これじゃ勧誘だね」
沙奈恵ちゃんはちょっと照れながら笑った。
沙奈恵ちゃんはそれだけ言うと、後ずさって…バランスをとるために両手を隠しているところから離して…行った。
「テニス部でも、基本的なトレーニングは同じだから、興味あったらトレーニングのために行ってみるのもいいかもよ」
隣から沙羅ちゃんが言う。
「うん、考えてみる」
テニス部も、ちょっとトレーニングに行ってみる候補の場所になった。
沙羅ちゃんは、椅子をずらして、少し僕に近づいて、僕に耳打ちした。
「あの…アスからの伝言なんだけど…せっかくのお風呂の機会、多くの人と交流したほうがいいから、その…『深い』関係は、後にした方がいいんじゃないか、って…」
「あ…飛鳥ちゃん、そういうことを、言ったんだ…」