君の人生、変えてあげる。 216
「そうだね、山登りをして、キャンプする、そんな感じ」
高校の部活動にしては本格的のような気もする。
「もちろんただトレーニングするだけじゃなくて、必要なことは座学で教えられる。簡単なことなら学校でもできるしね」
「そうなんだ」
「うちもいきなり胴着と竹刀を持ってやるわけじゃないからね」
文乃ちゃんも言う。
「基本的な体力づくりや筋トレは、うちも含めてたぶんどんな運動部も共通だから。あとは剣道は足さばきが大事なんで“ラダートレーニング”とかは特徴的かな…」
「ラダー、ってはしごのこと?登るの?」
「うん、はしごだけど、登るんじゃなくて。床にはしご状にテープを貼ってその上を跳んだりするトレーニング」
僕は、その様子を頭に浮かべようとした。反復横跳びの拡大版みたいなものかな?
「それで、その次に、竹刀を借りて素振り…って、別に、修行の道は長い、的な説明をしようとしているんじゃないよ」
「うん、分かる」
分かる、とは言ったものの、やはり「道」と付くだけに、修行的なステップではありそうな感じはした。
登山も、ステップを踏んで上へ向かうから、ある意味似ているのかもしれない。
「じゃあ、そこを曲がったら、そろそろ休憩ね。このコースの、次の景色のいいところ!」
柚希ちゃんが呼びかける。
僕たちは、角を曲がった。
ここは!午前中に絵で見たところだ!
まだ周りの木々が色づいていないのを除けば、あの絵のロケーションそのままだった。
「綺麗!」
「これはすごいね」
みんなも思い思いの声を上げる。
本当にその通りだと思った。
「柚希ちゃん、よくこんなコース見つけられたね」
「かなり前から調べてたからね」
柚希ちゃんは僕たちに、等高線ごとに色分けされ、登山道などが細かく書かれたカラフルな地図を見せてくれた。
「この地図、登山道のコースタイムだけじゃなく、こんな風にいろいろコメントが載ってるでしょ」
「ほんとだ『展望雄大』とか」
「このコメントは、執筆者が毎年実際に歩いて書いているらしくて参考になるよ」
「そっかあ、すごい手間のかかってる地図なんだね」
沙羅ちゃんが感心する。
「まあ、こういう人たちは好きで歩いてるんだろうけどね」
柚希ちゃんは笑う。
「あとは先輩からの情報…うちの部は、大学とか社会人とかの方とも接点あるのでいろいろ聞けるんだ…とかを合わせて、このコース決めたんだ」
「さすがだね〜」
一同感心する。
柚希ちゃんは「はい、おやつ」と言ってザックから栄養補助食品(ちょっと急ぐ時とか小腹がすいたときとかに食べるブロック状の食べ物)を出してみんなに配った。
「ここまで予定どおり。順調にいけば、あとちょっと登って、今日の最終目的地に、ちょうど西日が回った頃に着けるよ」
みんなおやつを食べ終わったころ、再び出発する。
「ねえ、柚希ちゃん、このザック、他に何が入っているの?」
“何かあったときのためのもの”と言ってたし、それでもさっきからチョコレートとか栄養補助食品とかでてくるし、ちょっと気になる。
「うーん、例えば救急のセットとか」
「そう、午前中にちょっと葉っぱ触って手を切っちゃったとき、絆創膏もらったよ」
由佳里ちゃんがその絆創膏を貼った指を見せる。