君の人生、変えてあげる。 18
「まず、芸術科目だけど…」
飛鳥ちゃんは黒板の「音楽/美術」のところを示しながら言った。
「そう、どちらか、選ぶ。たっくんはまだ聞かれていない?」
「うん、まだ、聞かれてない」
体操着や水着の話でも思ったが、恐ろしいくらいスムーズだった編入手続きには実は結構いくつもの抜け漏れがあったのではないか…と僕は改めて不安に思った。
「その時間の前には聞かれるよ。たっくんはどっちを選ぶ?」
「美術かな」
歓声とため息が交差する。
別に、絵がうまいとかではない。楽器が苦手、という消極的な理由から美術を選んだ。
歌が苦手なわけではない。カラオケも、中学時代には行ったことないではなかった。
「それと、総合学習。うちでは、グループを作ってあるテーマについて研究して、3月に報告する、っていうふうにやってる」
結構本格的だな。
「先生に相談しないと…なんだけど、たっくんには、多分、気にいった研究テーマのグループに参加してもらう感じになると思う……ちなみに、私たちのグループでは、地域活性化…を一応研究しているよ」
学校だけに限らず、地域全体がテーマなのか。
「まあ、そのときにそれぞれのグループのテーマを見てもらって、気に入ったものを選んでそのグループに加わることになると思う。学習が本格的に始まるのは、宿泊研修の後、来月半ばくらいだから」
飛鳥ちゃんはそう言った。
「勉強に関してはこのくらいでいいかな?」
「うん」
「じゃあ、他に何かある?」
飛鳥ちゃんが聞いてくる。
「そうだな…他のクラスとか、上の2年、3年の先輩たちが僕をどう思ってるかが気になるかな」
「始業式とか、食堂とかでみんなたっくんをチラ見するよね」
律っちゃんが言う。
「お母さんは問題ないって言うけど、他の学年やクラスの担当の先生が、どこまで伝えてるかはわからないなぁ」
茉莉菜ちゃんが腕組みして思案顔。
「それなら、校内で一番権力のある人たちに会ってみようか」
胡桃ちゃんが微笑む。
「権力?」
「うん、今の生徒会長と副会長。うちのクラスに、その妹がいるんだ」
胡桃ちゃんがそう言うと、離れたところにいる二人の女の子がビクッと反応した。
黒髪のサイドポニー・相木操(あいき・みさお)ちゃんと、
ダークブラウンのウェーブがかったロングヘアの湯沢秋(ゆざわ・あき)ちゃんだ。
「たっくん、では、まず生徒会長と副会長に会ってみる、というのはいいかな?」
飛鳥ちゃんは司会としてそう言った。
「いきなり言われても…」
「みさちゃん、あきちゃん、お姉さんは、たっくんのことは、何か言ってる?」
飛鳥ちゃんは、操ちゃん、秋ちゃんに向かって言った。
「うちの姉は『ヘイソクジョウタイヲダハする存在かも』のようなことを言ってて、結構興味を持っているみたい」
ええと、閉塞状態を打破、か。難しいことを言う会長さんだな。
「授業中以外は生徒会本部室にいることが多いから、昼休みに会えると思う」
「じゃあ、昼休みに、みさちゃん、案内してもらう、でいいかな?」
「うん、たっくんが、よければ」
この流れだと、行かざるを得なさそうだ…生徒会本部なんて、今まで縁がなかったのだが…
「ええ、じゃあ、お願いします」
「実は、うちの姉は、男性が苦手で…たっくん、ごめんなさい」
秋ちゃんが口を開いた。
「『女子しかいないから女子高に来たのに男子がいるなんて』って言ってた…でも、たっくんのこと、知れば、きっと誤解は解けると思う」
まあ、僕自身、男子校であんな目にあってここに流れ着いたような身だからね…
「そう言われても仕方ないよね。そもそも僕がイレギュラーなんだし…」
秋ちゃんに向かってそう言うと
「でも、環境は日々変化する。変わるべきときはいずれ来る。そのために、努力は必要だよね」
飛鳥ちゃんが強い口調でそう言った。
…いずれ、飛鳥ちゃんが生徒会長になったりするのかもしれないな。
昼休みに生徒会の皆さん?に会うことが決まったところで、1時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。