君の人生、変えてあげる。 149
データは、顔写真までついていた。
文字を読み始めたころ、竹中先輩は言った。
「これは、逆の立場で考えてみて。もし、君が男子校の三年生で、一年生に一人だけ、かわいい女子が来て、そのクラスがすごく楽しそうで、君たちはそれを遠くから見ているしかない。そんなとき、その子の方から君に会いに来た!と思うと、多少イメージが湧くんじゃないかな」
「なるほど…そうかも知れませんね」
「最初は不安だろうと思う。でも、勇気を持って近づいてみたら、実は意外と話しやすい、そんなことはよくあるんじゃないかな」
確かに、僕のクラスだってそうだ。
最初はどうなるんだと思ったけど、飛鳥ちゃんや茉莉菜ちゃんをはじめ、気さくで優しい人たちに囲まれて、今ではすごく楽しいと思っている。
「あくまで私の見立てだけど、君を好意的に見てる子たちは多いと思うんだ」
竹中先輩は、ちらっと時計を見た。
「もうそろそろ、休憩は終わり。じゃあ、そのデータは、読んどいて。なにか困ったことがあったら、そのデータの最後に私への連絡方法が書いてあるから、いつでも連絡ちょうだい」
そういって竹中先輩は立ち上がった。僕も慌てて立ち上がった。
「ありがとうございます!」
竹中先輩は、再び、スタッフオンリーの扉の向こうに消えた。
僕は再び文芸部の現役の人たちのところに戻った。
「どうだった?」
磯村先輩が聞いた。
磯村先輩も立候補予定者なのだから、そういえば一緒に聞いてもいいような気はする。
「はい、いくつか、策を授けてもらいました」
「うん、さすが竹中先輩だね。そうそう、2年生のほうは、今勝代が、後半クラスでの候補者擁立作戦進めてるから、安心して」
「はい、ありがとうございます」
席に着くと、歩ちゃんが、スマホの画面を示して、言った。
「たっくん、この場所、行ったことあるの?」
僕は、その地名と地図を見た。地名にはあまり覚えがないが、まわりにあるものは、覚えがある。
でも、言っていいのか、迷った。それは、飛鳥ちゃんと、一夜を過ごした場所だったから。
「うーん、この場所って…」
「アスが、貸してくれたんだ、空き部屋を」
歩ちゃんはひそひそ声になった。
「このあと、休憩用、に」
…あの部屋は、確か飛鳥ちゃんの叔父さんである秀雄さんが所有していた『別宅』みたいなものだったと記憶している。
普段は使わないで、倉庫代わりのような…少し記憶が曖昧になっている。
確かに、ここからでもいける距離だ…駅も近いし。
飛鳥ちゃんは、こういう機会を見越して、あの部屋を休憩用に取っておいたのだろうか。
「これからどうする?みんなにも聞いてみる」
歩ちゃんはそう言った。