君の人生、変えてあげる。 147
「ええ、はい…」
それから、軽食が運ばれてきて、皆で食べ始める。
僕たちは、今日のこと、文化祭号のこととか、いろいろ話した。いつの間にか、僕は前から文芸部の部員だったのではないか、と思えるほど、自然に参加していた。
そのうちに、時間はまわり、他のお客さんは、まばらになっていった。
「おまたせ!酒本君。あの席へ」
竹中先輩は、私服…かなり地味な…に着替えて、再び僕たちの前に現れた。僕は、やや緊張しながら、手帳とペンを持って、その、やや影に隠れたような席に向かった。
そこでは、ノートPCにつながった、かなり壁に近いところにあるプロジェクターから、白い壁にウインドウズの画面が映されていた。
「じゃあ、早速、生徒会役員選挙における、三年生の状況と、酒本君たちの共学化陣営が勝つにはどうするか、について」
目の前の竹中先輩は、そういってPCを操作した。
僕は、ますます緊張した。どんな話が、はじまるのだろう…
壁には、まず円グラフが表示された。
「これは…ちゃんとアンケートをとった訳ではなくて、ある程度イメージなのだけど、三年生の状況…そう、その前に、基本的なことを言ってしまうと、三年生はもうすぐ卒業だから、基本的に共学化してもしなくてもあまり影響はないんだ。それはまずおさえて」
「はい」
「まず、最初のこの細いところは『伝統が!』とか言う、強硬な人たち。署名運動とかやってるのもこの人たち。ここは、多分言っても変わらないから、放置」
画面には、その内容の文字が表示された。
「はい」
「君が攻めるべきは、この、少なくない『うらやましい』と思っている人たちのところ」
「はい」
「この人たちは態度が流動的だから、早いうちに説得したりすれば君の方に取り込むことができる」
「なるほど…」
「少なくとも、この中には共学反対派はいない。ここをどうするかで、選挙は決まると思うよ」
「わかりました」
円グラフには『うらやましい』より少し小さい範囲のところが示されている。
「ここは『どちらとも言えない』、態度がわからない人たち」
「『どちらとも言えない』人たちには『迷うなら、学園のことは、後輩たちに任せよう』という方向に持っていって、棄権とか白票とかにしてもらおうと思っている。これで当選は近づく。このあたりは、私たちに任せて」
「なるほど…はい」
やっぱり、この方、いろいろ策を練っているんだ…
「この、強硬に反対の人と同じくらいの細さのところが『学園の未来のためには…』と、積極的に賛成の人。前生徒会長とかが、ここに入る。前会長も、現会長と似た感じの人でね」
僕は「我が校は閉塞状態に…」と言っていた会長さんを思い出していた。
「そして、ここは『その他』。いろいろなケースが含まれるのだけど、キーになるのが…うちの学園には産休制度があって、実際に使っている人もいる、っていう話は聞いたことある?」
「はい」
「その一人は、三年生で、もうすぐ戻ってくる。この人は、彼氏が逃げてしまったんで『男なんて!』と思っているはず。それを『男でも、そんな人ばかりじゃない』と思ってもらえるようにすれば…ある程度影響力のある人だから、無視できない程度の票が動くと思うんだ」