君の人生、変えてあげる。 146
「でしょう。ここは、オーソドックスなところとは違って、呪文みたいなものもなく、落ち着けるんだ。女子にとっても、いやすい」
高森先輩がそう言った。
確かに、まわりを見ていると、お客さんはまばらだが、男女は半々、というところだった。
「図書館」らしく基本的に静かだが、おしゃべりしてはいけない、雰囲気でもなかった。
「落ち着くから、私たち、この街に来ると、ここに来る。そのなかで、バイトを始める方もいるわけで」
磯村先輩がそう言ったところで、さっきとは別の司書さんが近づいてきた。
「いらっしゃいませ。旅人様」
すらっと背が高く、柔らかい感じの笑顔で、その人は言った。そして、声を落として、続けた。
「あなたが、酒本拓真君かな?」
この人が、竹中先輩かな?部長だった、というイメージとは、少し違う。
「はい、初めまして」
「こちらこそ。後輩のみんなから話は聞いていたと思うけど、私が竹中範子…文芸部の前部長だったの」
柔らかな笑みを浮かべながら言う先輩。
「ふふ、驚いたかな?」
「あ、いえ、えっと…」
いざ面と向かうとなかなか思い通りに言葉が出ない。
「まあ、具体的な話は後で」
竹中先輩は、表情そのままで仕事モードに戻り
「ご注文ありましたら、お声がけください」
と言って、去って行った。
「たっくん、なに食べる?」
歩ちゃんから渡されたメニューを見ると、ここはご飯系は無く、食事は軽いものになりそうだった。さっきの店で少し食べたのは幸いだった。
僕も軽食とお茶を注文して、先に来たお茶を飲みながら待つ。
「なんか、あんまり、部長って感じじゃない方ですね」
一息ついて、僕は言った。
目の前の磯村先輩が、ちょっとニヤッと笑った。そして、声を落として、こう言った。
「竹中先輩『知らぬ顔の範子』って言われてね。何も知りません、っていうにこやかな顔で、裏でいろいろ策を練っているらしいんだ…たとえば、あんまり具体的な中身は判らないんだけど、妹さんに言い寄ってきた男を使っていろいろ情報を集めて自分側に有利な状況を作り出した話とか…」
「お呼びでしょうか?旅人様」
竹中先輩が近づいてくる。
「いえ、何でも、ないです」
…あの笑顔の下にそんな顔が隠されていたとは。
女の人はなんだか怖い。
…背筋が凍るような気がした。
「…ちょっと怖いこと言っちゃったかな」
磯村先輩が言う。
「今言ったのはあくまで過去のことだから…ホントは、優しくてとてもいい人だよ」