君の人生、変えてあげる。 145
「もっと雰囲気を経験するなら、軽くでいいから何か食べ物を頼むといいよ」
「皆さんは?」
「次のところで食べる予定」
歩ちゃんの言葉のとおり、ほかの方々は飲み物だけを注文しているようだった。僕は、ちょっとお腹が空いてきたこともあるので、お言葉に甘えて、軽いものを注文した。
(オムライスにしたら、という意見もあったが、そこまでお腹が空いていなかった)
そして、メイドさんが料理を運んでくる。料理を置いたメイドさんは、どこかで読んだことがあるとおりに“呪文”のようなものを、唱えていった。
「本当に、こんな風に、言うんですね」
来る前はこういう店自体フィクションのようなものだと思っていたから、今でもちょっと現実にいる気がしないのだけれども。
食事を軽くいただき、その店は足早に出る。
お代は割り勘なのかなと思ったが、磯村先輩がみんなを制して支払う。
「いいんですか?」
「これも部活動の一環だよね。活動費で払えばOKだからさ」
…そうなのかな?
「『取材と称して』って、言ったでしょう。実際に取材的なこともやってるんだよ」
歩ちゃんは、テキスト文がびっしり書かれたスマホの画面をちらっと見せてくれた。
それは、確かに、部活動の、一環なんだなあ。
領収書をもらう磯村先輩を見ながら、僕はそう思った。
「じゃあ、竹中先輩のところ行くよ」
バイトしている先輩がいる、という話だったが、竹中先輩、というんだ…竹中先輩…聞き覚えがある。黒田先輩が言っていた、文芸部の前部長。
歩きながら、僕は磯村先輩に聞いた。
「竹中先輩って、前部長の、ですか?」
「そう。竹中範子先輩。酒本君、生徒会役員選挙のことで話を聞くでしょ。竹中先輩、忙しい時間が終わって、休憩時間ににったら、酒本君と話す時間を、取ってくれる、って」
僕たちは、駅と反対の方向にどんどん歩いていった。
いろんな店がある。メイド喫茶一つとっても、鉄道をコンセプトとしているらしいところとかを見た。
そのうちに、街並みはだんだん普通のものになっていった。
そして、通りを渡った、あまり目立たない店の前に来た。
「ここは、街外れの、旅人が集う私設図書館、というコンセプト」
磯村先輩が扉を開けた。
「いらっしゃいませ。旅人様」
建物の内装はシックな洋館風。
出迎えてくれた店員は司書という設定だろうか。
「(この人が竹中先輩?)」
視線を向けるが、歩ちゃんが首を横に振る。
店員さんの案内に従って指定された席に座る。
「感想を聞かせて欲しいかな」
「これは…なかなか他にはないですよね」