君の人生、変えてあげる。 143
他の人も、このフロアはイマイチわからない様子で、僕はちょっとほっとした。
それでも、あの男キャラ二人が…うーん…考えないでおこう。
「酒本君、歩ちゃん、もう見たいところは見たかな?」
「はい」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、次へ」
僕たちは、磯村先輩について、下に降りて、店を出た。
「ところで、歩ちゃん」
「何?」
僕は、店に入ったときに疑問に思ったことを聞いた。
「ここの店名『こじをえず』って、何だろう?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、の、こじをえず」
「なるほど…」
僕たちは、しばらく駅を背に歩いた。
「次はどんなところにいくの?」
「レイヤー ひーちゃんの趣味の店」
「レイヤー?!」
僕には「層」という日本語が頭に浮かんだ。
「層?何層、何層とかいうときの?」
「そのレイヤーじゃなくて」
説明してくれるのは高森先輩。
「コスプレイヤーの略、と言えばわかるかな」
「ああ…何と無く」
「アニメやゲームのキャラクターのカッコをそのまま衣装も真似する…みたいな感じ」
高森先輩が自分のスマホを操作して、ある画像を僕に見せてくれた。
何かの、イベントの様子のようだった。
スクロールしていくと、何人もの女性が、アニメとかのキャラの(半分以上は、僕は何のアニメかは分からないが)格好をして映っていた。
「なるほど…コスプレイヤー、って、言葉では聞いたことはあったのですが、実際の画像は、初めて見ました」
「もうすぐ、実物が見られるよ」
高森先輩は、僕からスマホを受け取りながらそう答えた。
そして僕たちは、次の目的地の店に入っていった。
おお…結構広い。
広い店内には、アニメとかのキャラの服から、道具とか、かつら(あとで、ウイッグ、と言った方がいいと聞いた)とかが、所狭しと並んでいた。
何と無く知っている作品の衣装もあれば、まったく見たことのないものまで、たくさん並んでいる。
その中でひーちゃんは店員さんと思われる女の人と何やら会話を交わしていた。
「ひーちゃんはここの常連さんっぽい」
隣の歩ちゃんが言う。
「さっき見せた画像にもひーちゃんがいたんだけど、気づいたかな?」
「ええっ!?」
僕は、もう一度高森先輩のスマホを借りた。
…うーん、よく見ると…頭の中でその画像の人のウイッグを取っていくと…茶髪セミロングの、ひーちゃんだ。
「あまりに、なりきっていて、わかりませんでした」
「今日は、……の、夏服バージョン…ちょっと時期は遅かったけど…試着してきまぁす」
ひーちゃんは、確かに、画像にあったキャラの夏服バージョンらしい服を手に、皆にそう言った。