君の人生、変えてあげる。 141
「ちょっと、たっくんを案内してきます」
歩ちゃんは磯村先輩にそう言って、僕たちはそのフロアを出た。
「さっき、府川先輩の話が出ていたから、BLのフロアにも寄ってみる?」
「う、うん…それも、寄るくらいで」
そう、A館は、男性向け、ということだったんだ。
僕は歩ちゃんに導かれて、男性向けの同人誌のフロアへ、そして、特に止められることもないまま18禁のエリアに入った。
「胸大きい絵が多いよね…たっくんは、胸大きい方が好きなの?」
「う、うん…まあ…」
肯定しがたいものがあったけど、嘘をつくわけにもいかず、頷いた。
「そうだよね〜、男の子はみんなそうだよね、たっくんも恥ずかしがることないよ」
歩ちゃんはいつもと変わらず笑っていた。
フロアの中を2人で進んでいく。
目に入る絵はどれも少し過激なものだけど、歩ちゃん以外にも女性客はいた。
やがて、自分も知っている作品の二次を見つけ、僕は思わず目を止めた。
うーん、あのキャラが、こんな姿に…
とはいうものの、そういう妄想も、確かにわかるような気がした。
「二次に興味持った?たっくんも何か書いてみたら」
「うーん、絵は無理だな」
「二次の小説とか」
うん、絵よりは文章の方が書けるかもしれない。
ただ、イメージしたことがそのままできるかと言われるとちょっと難しい。
「僕にできるかな…?」
「初心者でも大丈夫だよ。うちの部でなんでも教えられるから」
「うーん…そうだなあ…」
僕はあいまいに応えたが、初めて文芸部のドアを開けたときと比べれば、ずいぶん書けそうな気がしてきていた。
僕は、本を背にしてあたりを見回した。
レジの人と目が合いそうになった。僕は目をそらした。やはり、もしもレジの前に立てば、とがめられそうな気もした。堂々とここにいるには、僕はあと2年近くの経験が必要だ。僕は16歳になったばかり…
16歳に…僕は、あの、クラスのみんなに祝ってもらった誕生日を思い出していた。
いろんな事がある、濃密な日々が続いたから、ほんの数日前のことが、もうずいぶん前に、感じられた。
「歩ちゃんは、もう16歳になってるの?」
歩ちゃんは、唇の前に人差し指を立てる「静かに」のサインを出した。うん、そうだよね…ここではまずい。
「うん、何で?」
歩ちゃんは耳元に近づいて、小声で言った。
「いや…何となく」